死体は語る
科学捜査を主軸としたミステリードラマは、日本、海外を問わず人気ジャンルの1つです。
こうした作品がきっかけで、死体から事実関係を見つけ出す法医学に関心を持った人も多いのではないでしょうか。
法医学をテーマにした作品は、日本では古いものだと「きらきらひかる」、最近では「アンナチュラル」などのドラマが人気を博していました。
死体が発見されれば、それは何らかの死亡事件となりますが、事件に常に目撃者がいるわけではありません。
見つかった死体は事故で死んだのか? それとも殺人事件だったのか? これは事件捜査の最初の重要な判断になるでしょう。
法医学は、たとえ目撃者がいない事件でも、死体の状態からその人物に何が起きたのかを推理します。
死体には、専門家から見た場合に、数多くの死因につながる痕跡が残っているのです。
しかし、法医学の専門家が、物言わぬ死体からさまざまな事実を見つけ出せるのは、法医学研究がどんな死因ではどんな痕跡が残るかということを、少しずつ明らかにし、知識として蓄えてきたからです。
今回の研究を発表したのは、南アフリカ共和国の東大とでも言うべきウィット大学の法医学研究チームです。
アフリカでは、気候変動と共に落雷の発生件数が非常に増加しています。
これに伴い落雷による事故死の件数も増加していると推定されます。
けれど、アフリカの遠隔地で落雷に遭った場合、そこには目撃者もおらず、死体も長く発見されずに放置されることがあります。
死体が発見されたとき、それが落雷による事故死だったという事実は、皮膚の火傷痕や臓器のダメージから判定することが可能です。
しかし、それが白骨化していた場合、判断は極めて難しいものになります。
軟組織の失われた白骨死体から、死因が落雷によるものだったと判断する方法は、これまでのところ見つかっていませんでした。
今回の論文の種執筆者であるウィット大学解剖学部のニコラス・バッチ博士は次のように語ります。
「落雷による死亡者の特定は、通常、皮膚に残った痕跡や内臓の損傷から判断されます。
しかし体が分解され組織が失われれば、それは判断できなくなります。
私たちの研究は、乾いた骨しか残っていなかったときに、人間の骨格の奥深くに残された雷による損傷を特定する最初の研究です。
これにより、死体が偶発的な事故で亡くなったのか、殺人事件だったのか識別できるのです」
ではこの研究によって、どうやって骨だけで落雷にあったことを判断できるようになったのでしょうか?