脱水に反応して、タンパク質が集合
クマムシは過酷な環境にさらされると、体の水分を抜いて「乾眠」に移行します。
乾眠は、すべての代謝活動が停止した状態であり、これによって、極低温や宇宙空間、放射能にも耐えられるようになるのです。
いわば、老化を止められるような能力であり、再び給水すると元の状態に戻ります。
なぜ、そんなことが可能なのか。
研究チームは、クマムシの細胞内に豊富に存在するタンパク質「CAHS1」に注目し、調査を開始しました。
ゲル状ファイバーが細胞を保護している可能性
チームは、透過型電子顕微鏡を用いて、乾燥状態にあるCAHS1タンパク質のかたちを調査。
水分がなくなるにつれて、細胞内のタンパク質濃度は高まります。そこで、水溶液中のCAHS1を低濃度から高濃度へ変化させた際の分子のかたちや集合状態を観察しました。
すると、濃度が高くなるにつれて、CAHS1タンパク質は自然と寄り集まってファイバーを形成し、最終的にゼラチンのようなゲルとなったのです。
ファイバーやゲルは水を加えて濃度を薄めると消失し、元の状態に戻りました。
脱水ストレスにより、タンパク質が集まってファイバーをつくることを証明したのは世界で初めてです。
このタンパク質の集合体こそが、クマムシの乾眠を可能にしているのかもしれません。
たとえば、脱水状態から戻る際に必要な成分を保護したり、乾燥によって生じる有害物質を隔離する働きがあると考えられます。
今回の結果から、クマムシは、細胞内にある豊富なタンパク質のおかげで、脱水状況に迅速に対応できることが示唆されました。
この成果は、クマムシの乾眠についての理解を深めるのみならず、水のない環境での生命の適応戦略を理解する上でも大きな手がかりとなります。
さらに研究チームは、この発見が「生きているとは何か、の謎に迫るとともに、医療やバイオテクノロジーへの応用研究の推進につながる」と期待しています。