なぜADHDのある人は、働きづらくなるのか?──調査の背景と方法
ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)は、不注意、衝動性、多動性といった特性を持つ神経発達症のひとつです。
子どもの頃には、授業中にじっと座っていられなかったり、順番を待つのが苦手だったり、人の話を最後まで聞かずに割り込むといった行動として表れることが多くあります。また、宿題や忘れ物の管理が難しい、気が散りやすく集中が続かないといった特性も見られます。
一方で、成人になってからADHDと診断されるケースも珍しくありません。大人になると、こうした特性は形を変えて、仕事の納期が守れない、会議中に話の流れを追えない、人間関係で衝動的な言動をしてしまうなどの問題として現れます。
これらの症状によって、ADHDのある人は職場での評価が低くなったり、失業や転職を繰り返したり、金銭管理がうまくいかないといった社会的な不利益を被ることがあります。また、こうしたことから自己肯定感の低下やうつ、不安といった二次的な心理的困難に悩まされることも少なくありません。
近年、こうした大人のADHDについてよく耳にするようになり、彼らの就労や人間関係で困難を抱えることは広く語られています。しかし、それらの多くは体験談や印象に基づくもので、科学的に実証されたデータは限られていました。
そこで今回の研究は、全国レベルの行政データを用いて、ADHDのある若年成人が実際に就労や教育の面でどのような不利益を受けているのかを明らかにすべく調査を行ったのです。
調査では、1995年〜2016年の間にADHDと診断された、30歳未満の成人したデンマーク国民4,897人を対象に、その社会的な状況を追跡しました。
そして対象者が30歳に達した時点での就労状況、学歴、医療費、精神疾患の有無などを総合的に分析し、同じ年齢・性別・地域に住む18,931人の一般市民と比較しました。
研究では、ADHDと診断された時期(18歳未満で診断されたグループと、18〜30歳で診断されたグループ)で参加者を分類したうえで、主に雇用率(employment rate)」にどのような違いが生じるかが分析されました。
なお、研究で用いられている「雇用率」は、一般的な意味での「職についているかどうか」ではなく、その年における主な収入源が労働によるものであるかどうかで判定されています。
フルタイムかパートタイムかは問わず、主たる収入が労働によるものであれば就労とみなされます。この定義に基づき、ADHDのある若年成人が、どれほど労働市場に参加できているのかが分析されました。
大人のADHDは、仕事上の困難や、就職・面接において不利になる可能性がよく指摘されていましたが、実際数値として調べた結果はどうなったのでしょうか?