雇用率は35%、学歴も収入も低水準──ADHDが成人後に残す社会的な影響
結果として明らかになったのは、ADHDがある人は社会的に大きな不利を抱えているという事実です。
まず、30歳時点での就労率はわずか35.5%。同年齢層の一般の人々では74.3%が就労しており、実に倍以上の開きがありました。
また、ADHDのある人は教育面でも苦労しており、約半数が初等教育(日本の中学校相当)で学業を終えている一方、一般市民の多くは職業訓練や高等教育を修了していました。
さらに深刻なのは、精神疾患(うつ病、不安障害、薬物依存など)との併発率が非常に高いことです。
ADHDと診断された人のうち、約70%が何らかの精神疾患を併発しており、それが就労や学業の達成をさらに難しくしている可能性が示唆されました。
興味深いのは、早期に診断された人のほうが、より良好な社会的成果を得ているという点です。18歳未満で診断された人の就労率は47.6%とやや高く、精神疾患の併発率も低めでした。
一方で、20代以降に診断された人の多くは、既に精神的・社会的に困難な状況に陥っており、その後の回復が難しいケースが多いことがわかりました。
今回の研究で分析された、「主たる収入が労働によるものではない人」の中には、こうした精神疾患が重症となり「障害年金や生活保護などの社会保障」で暮らしている人も含まれます。
加えて、学生などまだ就労する必要のない人たちも含まれるため、全てが働きたいのに働けない人たちを指しているわけではありませんが、それでも一般の雇用率約74%とADHDの約35%という開きは注目すべきものです。
また、21〜30歳の間にADHD治療薬を継続的に服用していた人についても分析が行われましたが、投薬治療が雇用や学歴に対して有意な改善をもたらす証拠は見つかりませんでした。
これは、「薬に効果がない」ということではなく、注意力や衝動性といった症状を軽減する助けにはなる一方で、就労や学業の成果といった社会的な結果を改善するには、不十分な可能性を示唆するものです。
つまり症状が軽度であったり、軽減されたとしても、会社の雇用等ではなかなか受け入れてもらないというのが、現在のADHDの人たちを取り巻く社会的状況なのでしょう。
ADHDという“見えにくい壁”に、社会がどう向き合うべきか
この結果にはデンマークという国の特性も関係しているかもしれません。
北欧諸国は、税金が高い代わりに障害の有無にかかわらず、すべての国民に対して手厚い医療・教育・福祉の支援制度が整備されていることで知られています。
ADHDを持つ人が、必ずしも無理に働かなくても生活できるだけの社会保障を受けられる環境にあるため、就労率の差がより顕著に現れた可能性もあります。
しかしながら、日本でも近年、発達障害のある若者が就職や学業に困難を抱えやすいことは、本人の体験談や支援現場から繰り返し報告されています。
たとえ福祉制度に違いがあったとしても、ADHDの人が30歳時点で就労できない人が多いという問題は、日本においても決して“他人事”ではないということを、この研究結果は示唆しているのです。
「就職できない」「学校を卒業できない」という表面的な問題の背後には、こうした脳の特性の理解と、それをサポートできていない社会の構造が複雑に絡み合っています。
特に注目すべきなのは、早く診断され、適切な支援を受けた人ほど、その後の人生でより良い成果を出せているという点です。
これは、大人になってから投薬治療を受けた人にあまり改善が見られなかったことと併せて考えると、ADHDは単純な治療だけでなく、教育や就労の場における支援体制、理解ある人間関係、社会的な配慮といった多面的な支援が必要なことを示しています。
近年は世界的にADHDと診断されている人が増えていることが報告されています。こうした報告と併せて考えると、社会は上手く噛み合わない人を締め出すのではなく、社会全体でその支援、受け入れ方を考えることが求められていくでしょう。
薬で押さえてしまうと今度は違うところに問題が出るのだと思います。
効きすぎるのかなと。
症状的にもカチッとした集団で活動することにあまり向いてない感じですから、そういう集団を要求されている今の社会とは相性は悪そうですね。