なぜ砂漠の民は「舟」に埋葬したのか?
物語の舞台となるのは、新疆(しんきょう)ウイグル自治区にある「小河墓地」という遺跡です。
小河墓地は、1934年にスウェーデンの考古学者によって初めて発見されました。
その後2000年代に入って本格的な発掘が行われ、これまでに約180基の墓が確認されています。
小河墓地の遺物は非常に保存状態がよく、有機物(木材、布、皮など)までがそのまま残っていることで世界的に注目を集めてきました。
この墓地の最大の特徴は、舟型の木棺を使っている点です。
それもただの舟ではありません。
棺は逆さまにして砂地に埋められ、櫂(かい)や杭を模したような柱が頭部から天に向かって突き出しています。
一部の棺にはウシの皮が何重にも巻かれており、まるで「水を渡るための道具」として準備されたかのようです。

なぜこんな形をしているのでしょうか?
研究者は「小河墓地の舟型棺は単なる形状の問題ではなく、死者を来世へ送り出すための象徴的な舟である」と指摘します。
この感想した砂漠には昔からオアシス地帯があり、夏に氷雪がとけた水が川となって流れ、湿潤な環境を一時的に生み出すことで知られていました。
この地域に暮らしていた人々にとって、水は命を支えるものであると同時に、死後の世界への通路でもあったのかもしれません。
舟型の棺、上向きの櫂や杭、ウシの皮での防水――それらは「魂を運ぶための舟」を演出し、死者がこの世から来世へ旅立つ準備を整えていたのです。