空気から飲料水を作る「窓サイズ」のパネルデバイス
人類の歴史を振り返れば、文明は常に「水のある場所」に築かれてきました。
にもかかわらず、現代でもなお多くの人々が清潔な水にアクセスできない現実があります。

水資源の過剰利用、人口の都市集中、そして気候変動の影響で、飲料水の確保は今やグローバルな課題です。
既存の水供給手段には限界があります。
川や湖、地下水は過剰に利用されることで枯渇し、浄水インフラがない地域では安全な水を得る手段が乏しいのが現状です。
そこで近年では「大気中の水蒸気を収集する」技術が注目されています。
この技術やその装置に用いられる素材の一つがハイドロゲルです。
ハイドロゲルは、水分を吸収・保持する性質を持つゲル状の素材で、主に生体工学や医療分野で応用されてきました。
しかし従来のハイドロゲル式水収集装置にはいくつかの課題がありました。
それは、リチウム塩などの吸湿性塩分を内部に含ませることで吸水効率を上げていたものの、収集された水に塩が混ざってしまうこと。
さらに、装置がフラットな形状のままだと水蒸気との接触面積が限られ、効率が悪いという欠点もありました。

こうした問題点を解決すべく、MITの研究チームは新たなデバイスの開発に取り組みました。
それが窓サイズの垂直型パネルです。
このパネルの表面には、ハイドロゲルの小さな丸い膨らみ「ドーム」がたくさんついていて、まるで気泡緩衝材(プチプチ)のような外観をしています。
それぞれの小さなドームは、夜になると空気中の水蒸気を吸い込み膨らみます。
表面積が大きくなるので、水蒸気を吸収する能力はさらに高まります。

そして、昼になると太陽の熱でその水分が蒸発。ドームは元の小さな形に縮むのです。
では、蒸発した水蒸気はどうなるのでしょうか。
このドームは、冷却ポリマーでコーティングされたガラス層に包まれています。
水蒸気がガラス面に触れることで凝縮され、水滴としてパネル下部のチューブへと流れ込む設計になっています。
これにより、電力もフィルターも使わずに清潔な飲料水が得られるのです。
では、この窓サイズの装置はいったいどれほどの飲料水を生成できるのでしょうか。