シミュレーション仮説は意外に学問的な側面も存在する
この宇宙が何者かが創造したシミュレーション世界であるとする「シミュレーション仮説」は、古くから多くの人々の興味を引き立てていました。
直近では、世界で最もお金持ちであるイーロンマスク氏がシミュレーション仮説を支持し、私たちが「本当の現実」にいる可能性は10億分の1だと述べています。
またシミュレーション仮説は哲学やロマンとの相性も抜群です。
例えば、特殊相対性理論における時間の歪みは、移動する物体をシミュレートするさいに生じた負荷に対する、フレームレート適応であると見なすことができるそうです。
また重力レンズ効果は、巨大な物体の情報を出力するにあたり、ポリゴン数とモデルの忠実度の妥協の産物であるとか。
さらに、先端物理学の弦理論やM理論で扱う10次元や20次元といった存在は、画面(2D)への3Dグラフィックの投影に近い現象であるとのこと。
このような意見が飛び出てくるのも、物理学が進めば進むほど、宇宙が数式にもとづく法則に支配されていることが判明してきたからです。
一方で、シミュレーション仮説を学問として真面目に検証した研究も存在します。
以前の研究では、私たちの宇宙をシミュレートしている存在も、現実世界のプログラマーと同じくある種の「手抜き(効率化・自動化)」をする可能性に目を付け、その証拠を探し求めました。
有限の計算資源でシミュレーションを行う場合、時空を無限に滑らかなつながりとして演算するのではなく、離散的な点の集まりとして扱い、物理法則はそれぞれの点の周辺にある格子状空間の内部でのみ有効かされている可能性があります。
研究者たちが地球に届く宇宙線を分析したところ、宇宙線のエネルギー分布が、基礎となる格子の構造を反映していることが示されました。
このように、真面目なシミュレーション仮説は、世界の記述方法を情報科学に基づき再解釈するという壮大なスケールとなっています。
シミュレーション仮説の支持者たちにとって世界はあくまで、仮想空間の一種であり、既存の物理法則はフレームレートやポリゴン数などのパターンを観測した結果得られた副産物なのでしょう。
真偽はともかく、現実世界をまるでオープンワールドゲームのように再解釈するという試みは、非常に興味深いものです。
空間、時間、素粒子など現実の物理量が最終的に粒子(ドット)として存在するからには、その描写をフレームレートやポリゴン数として理解するのもあながち間違っていないのかもしれません。
表現こそ奇抜ですが、既存の物理学を新たな観点からみるキッカケになる可能性もあります。
そうなると気になってくるのが、宇宙にはどれだけの情報量が存在するかです。
つまり極論すれば「神のPC」に「宇宙」をインストールする場合、いったい何ビットの空き容量が必要になるのか? という疑問です。