宇宙の終わりは予想より10¹⁰²²倍倍速いかもしれない
宇宙の終わりは予想より10¹⁰²²倍倍速いかもしれない / Credit:Canva
physics

宇宙の終わりは予想より10¹⁰²²倍倍速いかもしれない

2025.06.17 21:00:52 Tuesday

宇宙の“最終章”は、私たちがこれまで考えていたより桁違いに早まるかもしれません。

オランダ・ラドバウド大学のファルケ教授らの研究チームは、ブラックホールに限られていると思われていた量子蒸発メカニズムを、「重力ペア生成」と名付けてあらゆる重力場に一般化する理論の構築に成功しました。

新たな理論によれば、白色矮星の寿命が従来想定される約10¹¹⁰⁰年(1の後に0が1100個続く年数)から約10⁷⁸年(1の後に0が78個続く年数)へと大幅に短縮されることが示されています。

白色矮星は宇宙で最後に残る天体と言われるほど長寿命だとされていましたが、事象の地平線を持たない物体にも量子蒸発が起こるとすると寿命は10¹⁰²²倍早く終わってしまうことになります。

ファルケ教授は「究極の宇宙の終わりは予想よりはるかに早まりますが、それでも私たちには想像を絶するほど長い時間が残されています」とコメントしています。

では、なぜ事象の地平線を持たない普通の物体にも量子蒸発が及ぶのでしょうか?

研究成果は2025年5月12日付で『Journal of Cosmology and Astroparticle Physics』に発表されました。

An upper limit to the lifetime of stellar remnants from gravitational pair production https://doi.org/10.1088/1475-7516/2025/05/023

ホーキング放射的な量子蒸発は日常物体へ拡大できる

ホーキング放射的な量子蒸発は日常物体へ拡大できる
ホーキング放射的な量子蒸発は日常物体へ拡大できる / Credit:Canva

ブラックホールがやがて蒸発して消える――そんな驚くべき理論を1970年代に提唱したのが、故スティーブン・ホーキング博士でした。

ホーキング博士は1975年、量子効果によってブラックホールの近傍から粒子や放射線が放出されうることを示し、ブラックホールも少しずつエネルギーを失って縮小していくという仮説を発表しました。

これは「ホーキング放射」と呼ばれる現象で、当時の常識(古典的な一般相対性理論ではブラックホールの事象の地平線面積が減少せず、ブラックホールは基本的に「小さくならない」と考えられていた)を覆す革新的なアイデアでした。

ホーキング放射によれば、ブラックホールでは事象の地平線(脱出不能の境界)の付近で粒子のペアが突然現れ、一方がブラックホールに飲み込まれ、もう一方が外へ飛び出すことがあります。

その結果、ブラックホールはごくゆっくりと質量を失い、最終的には完全に「蒸発」してしまうと考えられています。

近年、このホーキング放射の概念をブラックホール以外にも拡張できるのではないかと注目されるようになりました。

2023年には、ラドバウド大学のハイノ・ファルケ教授(ブラックホール物理学者)、マイケル・ヴォンドラック博士(量子物理学者)、ヴァルター・ヴァン・スイレコム教授(数学者)からなる研究チームが、「中性子星のような他の天体でもブラックホール同様に蒸発しうる」ことを理論的に示唆したのです。

この先駆的な研究は大きな反響を呼び、「では具体的に他の天体が蒸発し尽くすにはどれほどの時間がかかるのか?」という疑問が科学界内外から寄せられました。

そこで今回研究者たちは、ホーキング放射と同様の量子効果に由来する重力ペア生成が宇宙全体の寿命に与える影響を定量的に評価し、恒星の残骸(白色矮星や中性子星など)の寿命に上限を与えることを目的として研究を行いました。

次ページ人体も月も10⁹⁰年で量子蒸発してしまう

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

物理学のニュースphysics news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!