実際に全てが量子蒸発する日は来るのか?

宇宙の終焉についてのこうした試算は、天文学・量子物理学・数学といった異分野の知見を組み合わせることで生まれた意欲的な研究成果です。
極端な未来予測ではありますが、「すべてのものはいつか必ず消えてしまう」という宇宙論的な覚悟を改めて裏付けるものでもあります。
ただし幸いなことに、その“最期の時”は気が遠くなるほど遠い未来です。
ファルケ教授は今回の結果について「究極的な宇宙の終わりは予想よりもずっと早く訪れますが、幸いなことに、それでも非常に長い時間がかかります」と述べており、宇宙の寿命が思ったより短いと言っても私たちの想像を絶するスケールでの話であると強調しています。
実際、今回提示された約10⁷⁸年という時間は新しい「上限値」に過ぎず、現実の宇宙が必ずしもそこまで生き延びる保証はありません。
たとえば物理学の未解明要素として陽子崩壊(プロトンの自発的な崩壊)が存在すれば、星の残骸どころか通常の物質そのものがもっと短い時間で崩壊してしまう可能性もあります。
また宇宙論には真空の崩壊やビッグリップなど他にも終末シナリオが提唱されていますが、いずれにせよ宇宙が無限に続かないことは確実です。
こうした極端な状況を通して「量子効果による蒸発」に注目し、宇宙のタイムリミットを概算した今回の研究ですが、その発想と計算は学術的な意味合い以上にロマンに満ちています。
数学者のヴァン・スイレコム教授は「このような疑問を持ち、極端なケースを調べることで、理論をより深く理解し、いつかホーキング放射の謎を解き明かしたいのです」と語っており、極限的な状況を考察することで現行理論の理解を深める狙いがあると強調しています。
誰も目にすることのできない遠い未来の宇宙最期の光景ですが、人類の想像力と科学の力でそこに少しでも光を当てようという研究です。
「宇宙の死」は従来考えられていたより早く訪れるかもしれませんが、それでも私たちには気の遠くなるほど長い時間が残されている――この新理論は、悠久の宇宙に対する畏怖と、科学の探究心の両方を感じさせるものです。
今の宇宙論も推測だらけで、昔の神話の宇宙論とほとんど変わらないのでは?