結び目理論の常識は実は誰も確かめていなかった

イヤホンのコードが絡まって困った経験は、誰にでもあるでしょうか?
私たちの日常には、靴ひもやコード類など、絡まってしまうと本当に厄介なものがたくさんあります。
実は、このような「絡まり」を数学的に研究している分野があります。
それが「結び目理論」です。
数学の世界では、絡まりを「結び目」と呼びます。
その絡まり具合を調べる方法の一つに、「ほどき数)」という考え方があります。
これは、「絡まった紐を完全にほどくためには、最低でも何回、紐を上下入れ替える必要があるか?」という数字です。
ほどき数が大きいほど、絡まり方が複雑だと言えるわけです。
ただし、このほどき数をきちんと計算するのは実はとても難しく、いまだに完全に分かっていない結び目がたくさんあります。
絡まりの研究は一見単純そうなのですが、実は非常に奥が深く難しい問題なのです。
そんな結び目の世界で数学者が注目しているのが、「連結和」という考え方です。
これは、2つの別々の結び目を紐でつなげて、1つの大きな結び目を作る操作を指します。
イメージとしては、2つの結び目を「電車のように連結させて」、一つの長い絡まりにしてしまうという感じです。
これまで数学者たちは、「2つの結び目をつなげると、それぞれの絡まり具合がそのまま合わさって、より複雑になるはずだ」と直感的に考えてきました。
直感的にもイヤホンコードのこんがらがった同じ塊が2つあれば、複雑さも2倍で解きほぐす労力も2倍必要になると思うでしょう。
しかし問題は、「常にピッタリと合計と同じになるのか?」ということでした。
たとえばほどき数が10のこんがらがりと20のこんがらがりが2つあった場合、それらを連結した大きなこんがらがりを解くほどき数は10+20でピッタリ30になるのでしょうか?
実は、この問題は数学的には厳密に確かめられておらず「きっと同じになるだろう」と数学者たちが暗黙の仮説として信じ続けてきただけだったのです。
そこで今回、ネブラスカ大学の数学者であるブリットナム氏とハーミラー氏は、この長年の疑問に真正面から挑むことにしました。
もし、結び目を二つ連結させた場合に、「それぞれのほどき数を足した数よりも少ない手数でほどけてしまう結び目」を発見できたら約90年信じられてきた数学の常識を覆す画期的な出来事となります。
研究者たちはそのような例を見つけられたのでしょうか?