「トリノの聖骸布」とは何なのか?
「トリノの聖骸布」は、イタリア北部の都市トリノにある聖ヨハネ大聖堂に保管されている長さ約4.3メートル、幅約1.1メートルの亜麻布です。
布には磔刑を受けたとされる男性の前面と背面の姿が、まるでネガ写真のように浮かび上がっています。
このため中世以来、「これはイエス・キリストの遺体を包んだ聖なる布ではないか」と信じられてきました。

布の存在が歴史に登場するのは1354年のフランス・リレでの展示からとされており、その直後から「偽物では?」という疑念が持たれていました。
1988年には、オックスフォード大学、チューリッヒ連邦工科大学、アリゾナ大学の3つの研究所によって、放射性炭素年代測定が実施されました。
その結果、聖骸布は西暦1260〜1390年頃、つまり中世に作られたものである可能性が高いとされ、イエスの時代(紀元1世紀)からは明らかに時代がずれていることが判明しました。
しかしこの測定には異論もあります。
測定に使われた部分が実際には修復された後の布だった可能性や、布に微生物の汚染があったことが議論されています。
そのため、「放射性炭素測定だけでは判断できない」とする研究者も少なくありません。
また、像の描写についても研究が進められました。
布に付着した血痕とされる赤い染みは、仰向けで寝かされた人間の血流パターンと一致しないとされ、むしろ後から付け加えられた装飾のような不自然さがあるとの指摘もあります。
こうした経緯から、聖骸布は中世の宗教芸術作品であり、信仰の対象として制作された「キリスト教の象徴」ではないかという見方が強まりつつありました。