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A:人間でできる布模様(緑)、B:実際のトリノの聖骸布、C:浮き彫り像でできる布模様(緑)/ Credit: Cicero Moraes., Archaeometry (2025)
history archeology

トリノの聖骸布は本当に「イエス・キリスト」を包んでいたのか、科学的に検証

2025.08.04 23:00:04 Monday

イエス・キリストの遺体を包んでいたと噂される「トリノの聖骸布(Holy Shroud)」は、長年にわたり信仰と科学の間で論争の的となってきました。

その神秘的な布には、磔刑(たっけい)を受けたとみられる男性の全身像が浮かび上がり、多くの信者にとって聖なる存在であり続けています。

しかし一方で、それは本当にキリストの遺体を包んだ布なのでしょうか?

最新の3Dモデリング研究により、その起源に新たな視点が投げかけられました。

それによると、布に写る像は人間由来のものではなく「浅浮き彫りの像」から転写された可能性が高いというのです。

果たして、聖骸布の正体とは何なのでしょうか?

研究の詳細は2025年7月28日付で科学雑誌『Archaeometry』に掲載されています。

Shroud of Turin wasn’t laid on Jesus’ body, but rather a sculpture, modeling study suggests https://www.livescience.com/archaeology/shroud-of-turin-wasnt-laid-on-jesus-body-but-rather-a-sculpture-modeling-study-suggests 3D models hint Shroud of Turin matches a medieval sculpture, not a ‘real human body’ https://interestingengineering.com/culture/shroud-of-turin-matches-a-medieval-sculpture
Image Formation on the Holy Shroud—A Digital 3D Approach https://doi.org/10.1111/arcm.70030

「トリノの聖骸布」とは何なのか?

「トリノの聖骸布」は、イタリア北部の都市トリノにある聖ヨハネ大聖堂に保管されている長さ約4.3メートル、幅約1.1メートルの亜麻布です。

布には磔刑を受けたとされる男性の前面と背面の姿が、まるでネガ写真のように浮かび上がっています。

このため中世以来、「これはイエス・キリストの遺体を包んだ聖なる布ではないか」と信じられてきました。

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トリノの聖骸布/ Credit: ja.wikipedia

布の存在が歴史に登場するのは1354年のフランス・リレでの展示からとされており、その直後から「偽物では?」という疑念が持たれていました。

1988年には、オックスフォード大学、チューリッヒ連邦工科大学、アリゾナ大学の3つの研究所によって、放射性炭素年代測定が実施されました。

その結果、聖骸布は西暦1260〜1390年頃、つまり中世に作られたものである可能性が高いとされ、イエスの時代(紀元1世紀)からは明らかに時代がずれていることが判明しました。

しかしこの測定には異論もあります。

測定に使われた部分が実際には修復された後の布だった可能性や、布に微生物の汚染があったことが議論されています。

そのため、「放射性炭素測定だけでは判断できない」とする研究者も少なくありません。

また、像の描写についても研究が進められました。

布に付着した血痕とされる赤い染みは、仰向けで寝かされた人間の血流パターンと一致しないとされ、むしろ後から付け加えられた装飾のような不自然さがあるとの指摘もあります。

こうした経緯から、聖骸布は中世の宗教芸術作品であり、信仰の対象として制作された「キリスト教の象徴」ではないかという見方が強まりつつありました。

次ページ布に写っているのは「浅浮き彫りの像」だった?

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