「老後うつ」を避けるには?
この研究が行われた背景には、日本の地方部で進行している公共交通の減少があります。
人口減少と高齢化によって、駅やバスの路線は廃止され、利用者も減少し、サービスの継続が難しくなるという悪循環が生じています。
その結果、自宅近くに公共交通機関がない高齢者が増えました。

このことは、歩行時間や社会参加の減少に繋がり、心の健康に悪影響を及ぼす可能性があると考えられています。
しかし、これまでこの問題を長期的に追跡した研究はほとんどなく、複数の自治体を対象とした大規模な調査は日本では実施されていませんでした。
千葉大学の研究チームは、中規模以上の都市を含む25の自治体において、2016年から3年間にわたり、日常生活において自立している高齢者4,947人を対象に調査を行いました。
対象者は調査開始時にうつ症状がなく、GDS-15(老年期うつ評価尺度)で5点未満であることが条件とされました。
そして、GDS-15で5点以上を「うつあり」、5点未満を「うつなし」と分類し、3年後のうつ発症を評価しました。

公共交通へのアクセスに関しては、まず駅やバス停が家から徒歩10〜15分以内にあるかどうかという主観的な感覚で評価しました。
さらに、GIS(地理情報システム)を用いて、自宅から最寄りの駅やバス停までの実際の距離を計測するという客観的な指標でも評価しました。
そのほか、性別、年齢、等価所得、教育歴、就労状況、婚姻状況、治療中の疾患の有無、同居人の有無、IADL(日常生活自立度)、人口密度といったさまざまな要因も補正因子として統計的に考慮されました。