骨折したら「生分解性人工骨」をその場でプリントできる新技術が開発
骨折したら「生分解性人工骨」をその場でプリントできる新技術が開発 / Credit:In situ printing of biodegradable implant for healing critical-sized bone defect
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骨折したら「生分解性人工骨」をその場でプリントできる新技術が開発

2025.09.12 22:00:30 Friday

アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、韓国の成均館大学(SKKU)や高麗大学(KU)などによる国際的な研究チームの共同研究によって、接着剤を熱で溶かして貼り付ける道具(グルーガン)を改造し、患者ごとにピッタリ合う生分解性の人工骨を数分程度で直接傷口に作り出せる技術が開発されました。

発射されるのは接着剤ではなく、生体に優しいプラスチック(ポリカプロラクトン)と骨の成分(ハイドロキシアパタイト)を混ぜ合わせた特殊な「骨のインク」です。

ウサギを使った動物実験では、この人工骨を使った方法は従来の骨セメントを用いる方法よりも明らかに骨の再生を促進する結果を示しました。

この「手術室で骨を自在に描ける新技術」は、人間にも安全に応用できるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年9月5日に『Device』にて発表されました。

In situ printing of biodegradable implant for healing critical-sized bone defect https://doi.org/10.1016/j.device.2025.100873

手術室で『骨』を直接作るという新発想

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私たちの骨には元々、ある程度の自然治癒力が備わっています。

例えば、小さなひび割れ程度の軽い骨折なら、多くの場合、骨が自ら新しい細胞を作り出して修復することができます。

しかし、交通事故や大きなケガ、あるいは骨の腫瘍を取り除く手術などで、骨が大きく欠けてしまうことがあります。

このような大きな骨の損傷は、「クリティカルサイズ欠損」と呼ばれ、骨の自然な回復能力だけでは完全に治すことが難しいとされています。

そこで外科手術を行い、失われた骨を補う必要があります。

これまでの方法としては、金属製のプレートを使って骨を固定する方法、あるいは人工的に作られた骨(人工骨)を使って欠けた部分を補う方法があります。

また、「骨移植」という方法もあり、これは自分の体の別の部位(例えば腰の骨)から健康な骨を取り出して、欠けた部分に移植する方法です。

ただしこの方法には、健康な部分から骨を取り出すための追加の手術が必要で、患者さんの負担も増えてしまいます。

しかも移植できる骨の量には限りがあるため、大きな欠損には対応しにくいのです。

また、他人の骨(ドナー骨)を移植することも可能です。

しかし他人の骨を使うと、身体の免疫系がこれを異物として認識して攻撃してしまう「拒絶反応」や、細菌感染などのリスクが高くなります。

そのため、どの方法を選んでも完全に安全で簡単、というわけにはいきませんでした。

さらに従来の人工骨や金属製のインプラント(体内に埋め込む材料)を使う場合でも、別の問題がありました。

骨の欠損が複雑で不規則な形をしていると、患者さんに合わせてインプラントをぴったり作るのが難しくなります。

そのため、手術の前にCTスキャンなどを使って患者さんの骨の形を詳しく調べ、それに合わせてオーダーメイドのインプラントを作る必要があります。

これは手間と時間が非常にかかる上、費用も高くなってしまいます。

また、従来の人工骨や金属インプラントは本物の骨と硬さや性質が違うため、長期的に見ると患者さんの体に完全に馴染まないという課題もありました。

あえて分かりやすく言えば、これまでの骨修復法は「既製品を無理やり穴に詰め込んで対応してきた」ようなものでした。

つまり、患者さんの骨にぴったり合うようにオーダーメイドすることが難しく、理想的な治療とは言えなかったのです。

そこで韓国の研究者チームは、こうした問題を根本的に解決するため、新しいアイデアを思いつきました。

それは、患者一人ひとりの骨に完全に合った人工骨を、手術室の中で医師が直接作り出してしまうという方法です。

これを可能にしたのが、今回研究者たちが開発した「手術室用の3Dプリンター」です。

この新技術は、手術の現場でオーダーメイドの人工骨をリアルタイムで作り出し、骨欠損の治療を劇的に改善することを目的としています。

次ページ手術室で骨を『描く』新型プリンターの仕組みと効果

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