火星で見つかった“奇妙な鉱物”の正体とは
パーサヴィアランスが調査を行った「ブライトエンジェル層」は、かつて川や湖が広がっていたと考えられるイェゼロ・クレーター西部に位置しています。
このエリアで採取された泥岩には、研究者たちが「ケシの実」「ヒョウ柄」と呼ぶように、不思議な模様や粒がたくさん見つかりました。
実はこれ、ただの岩の模様ではありません。
細かく分析すると、直径100〜200マイクロメートルほどの小さな結節や、1ミリほどのまだら模様の内部に、鉄リン酸塩(ビビアナイト)や鉄硫化鉱物(グレイガイト)が高濃度で含まれていたのです。
さらに驚くべきことに、これらの鉱物の周囲や泥岩の中から、有機炭素(有機物)が同時に見つかりました。
特に「アポロ寺院」と名付けられた地点では、有機炭素のラマン分光信号(Gバンド)が極めて強く検出されました。
この有機物は、炭素―炭素結合が多い分子で、地球の生命活動に欠かせない成分でもあります。
ただし「有機物=生物由来」とは限らず、隕石由来や非生物的な化学反応でも生成されることはあります。
しかし今回の発見が画期的だったのは、「有機物と鉄鉱物の絶妙なセット」が地層中に自然に並んでいた点です。
チームは最新の装置を使い、泥岩の組成や鉱物分布を徹底的に解析。
その結果、有機物と鉄リン酸塩・鉄硫化鉱物が共存し、しかもそれらが“レドックス反応(酸化還元反応)”という電子のやり取りを通じて、低温の環境でできたと判明しました。
地球では、こうした鉱物は「微生物が有機物をエサにし、鉄や硫黄を“呼吸”して生きていた痕跡」として多く見つかります。
つまり今回の火星の地層は、地球の太古の微生物の活動痕ととてもよく似ているのです。