2年以上続いた感染、その特殊な背景
今回報告されたアメリカ人男性は、2002年にHIV(エイズウイルス)感染と診断されて以降、十分な治療を受けていませんでした。
そのため、ウイルスと闘う「CD4陽性T細胞」が激減し、免疫力は健康な人の10分の1以下という極めて危険な状態に陥っていたのです。
男性は2020年5月ごろ、発熱や咳などコロナの症状を発症しますが、当初は診断を受けることができず、正式なコロナ診断がついたのは数カ月後の9月でした。
その後も2年以上にわたりPCR検査で陽性が続き、呼吸器症状の悪化や体調不良のため合計5回も入院する事態となりました。
彼は重篤な呼吸不全や死亡に直結するような経過はたどらなかったものの、最終的には別の原因で亡くなったと報告されています。
この男性のケースでは、体内の免疫システムがコロナウイルスを完全に排除できず、ウイルスが「持続感染」という特殊な状況を保っていたことが明らかになりました。
患者からは計8回のウイルス検体が採取され、そのすべてから活発なウイルスが検出されました。
研究チームの解析によれば、感染期間中もアルファ株やデルタ株、オミクロン株などが世界的に流行しましたが、彼の体内で見つかったコロナウイルスは感染当初の「B.1系統」のままで、他の変異株への再感染や置き換わりは起きていませんでした。
つまり、最初に体に入ったウイルスが2年以上も生き延び、じわじわと変化し続けていたのです。