赤の他人なのにDNAや生活習慣までそっくりだった
双子研究ではよく、誕生後まもなく生き別れた一卵性双生児が、まったく違う環境で育ったにも関わらず、学歴や食の好み、交際している恋人の容姿や経歴が不思議と似通うことがある、と言われます。
しかし一方で、2020年に36年ぶりの再会を果たした双子の姉妹は、IQに大きな差が出ていたという研究結果が最近報告されました。
このように、人間の性質は、遺伝子に基づき”自然”と先天的に決定されるのか、あるいは育成環境や”教育”により後天的に決まるのかという、「Nature(ネイチャー:自然)vsNurture(ナーチャー:育成)」論争には、いまだ決着がついていません。
そこでIJCの生物医学研究チームは、世界各地からそっくりさんのペアを集め、経歴やDNAの類似性を調べることにしました。
本研究では「francoisbrunelle.com」というサイトから、32組64人の顔写真を選定して、調査対象としています。
このサイトは、カナダ人アーティストのフランソワ・ブリュネル(François Brunelle)氏が、1999年以来、ネットを通じて収集した世界中のそっくりさんの写真がコレクトされています。
チームが、顔認識アルゴリズムを用いて、32組のペアがどれだけ似ているかを採点したところ、半数組が類似度の高い「ドッペルゲンガー」と認定されました。
(ちなみに、すべてのペアには、血縁関係がなく、共通する祖先から遺伝子を受け継いでいないことが確認されています)
さらに、これらのペアを対象に、身体測定、経歴や日常生活に関するアンケート、採取した唾液のDNA解析を実施。
結果、そのうちの9組18人で、身長や体重、利き手、血液型、学歴、メガネやペットの有無、喫煙や飲酒の習慣など、多くの点で驚くほどの共通点が見つかったのです。
さらに、DNA解析では、3730個の遺伝子について、計1万9277個もの共通する遺伝子変異を持っていました。
その多くは、顔や体の形態的特徴に関するものです。
この18人は、血縁関係がないにも関わらず、容姿から日常のライフスタイルまで、本当に瓜二つでした。
この結果から、同じ遺伝子変異の共有は、外見の類似性に関係するだけでなく、共通の習慣や行動にも影響を与える可能性があると示唆されました。
一方で、DNAレベルで共通点の多いそっくりさん同士でも、マイクロバイオーム(腸内微生物叢)には、大きな違いが見られています。
マイクロバイオームは、栄養や運動、喫煙などの環境要因に強く左右されるため、似たような遺伝子を持つ人でも、個人差が出やすいようです。
サンプル数が少なく、ヨーロッパ人の参加者が多いという問題点があるものの、研究チームは、この結果に驚きを隠せません。
研究主任のマネル・エステラー(Manel Esteller)氏は、こう述べています。
「本研究の成果は、極端に顔の似ている人たちが、多くの共通する遺伝子変異を持つ一方で、マイクロバイオームには不一致が見られることなど、人間の類似性に関する新しい洞察を提供しています。
私たち人間がいかなる存在であり、どこまでが遺伝子によって決定され、どこからが生涯の経験により獲得されるものなのかを知る手がかりとなるでしょう」
実際に、遺伝学では双子研究が盛んであるものの、赤の他人なのにそっくりという「ドッペルゲンガー」の分野はほぼ未開拓です。
研究チームは、この分野を発展させ、信頼のおけるデータ基盤を構築することで、たとえば、患者の顔をスキャンするだけで、どんなゲノムを持っており、どのような疾病リスクがあるかを特定できるようになるかもしれない、と述べています。
あなたのそっくりさんは、今もどこかで、あなたと同じような生活を送っているかもしれません。