指と肛門の間の関係性を見つけた研究者たち

考えてみれば不思議な話です。
私たち人間の腕や脚の先には指があります。
この指はいつ、どのように誕生したのでしょうか?
約3億8千万年前、魚の祖先が初めて水から陸へと上がりました。
一般には、この魚たちが陸上生活に適応する中で、泳ぐためのヒレはやがて陸上で体を支える手足に変わっていったと言われています。
しかし本当に指はヒレがそのまま変形してできたのでしょうか?
化石の証拠を見る限り、その説はもっともらしく思えますが、もしヒレから指ができたなら、ヒレの遺伝子と指の遺伝子の間には非常に密接なかかわりがあるはずです。
一方、指とヒレの設計図となる遺伝子部分に違いがあれば、「指の起源=ヒレ」という単純な公式に「待った」がかかることになります。
そこで今回の研究では、意外にも「魚の肛門」とも言うべき総排出腔に着目されました。
総排出腔は鳥や両生類、魚などの多くの動物が持つ、「排泄物や卵、精子を出すための体の出口」のことです。
私たち人間には排泄や生殖のための出口が別々にありますが、多くの動物ではそれらが1つにまとまっているのです。
このように総排出腔は体の最も「末端」の出口に位置する器官なのです。
そして面白いことに、指先(足先)もまた体の端っこの器官と言えます。
「だから何?」と言われるかもしれません。
「総排出腔の末端さ」と「指の末端さ」はまるで違う末端だと思う人がほとんどでしょう。
しかしスイスのジュネーブ大学(UNIGE)を中心に、ローザンヌ連邦工科大学(EPFL)やフランスのコレージュ・ド・フランス、アメリカのハーバード大学などの研究者からなる国際研究チームの見解は違いました。
彼らは総排出腔と指の末端という性質は本質的に同じ何かを共有していると考えたのです。
そしてその共通点が総排出腔の遺伝子と指の遺伝子を深く結びつけている可能性があると考えました。
また進化という長い視点で見ても、総排出腔はヒレや手足よりもずっと古い歴史を持つ器官です。
多細胞生物が複雑化して最初に手に入れた器官は、手足でも脳でもなく消化器官とその出口だったからです。
そのため総排出腔を作るために使われていたこの遺伝子スイッチが、長い進化の過程を経て指のような全く異なる器官を生み出すためにも再利用される可能性は十分にあります。
ただ、この話を聞いてすぐに納得できるでしょうか?
たとえ名立たる大学の一流研究者たちが国際チームを組んで取り組んだプロジェクトだとしても、まったく異なる働きをする総排出腔と指が、同じ設計図を使い回しているなんて、少し都合が良すぎる話のようにも感じます。
本当にそんな驚くべきことが、進化の過程で起こり得るのでしょうか?
研究者たちはこの大胆な仮説を実験で検証することになりました。