男女比を偏らせる遺伝子変異はあるのか?
世界人口は2024年現在で80億人を突破したと推定されていますが、不思議なことにその男女比はほぼ半々となっています。
これはあらゆる生物で共通しており、多くの生物種の性比はオスメス1:1を保ち続けているのです。
この法則は英国の統計学者で遺伝学者でもあるロナルド・フィッシャー(1890〜1962)にちなんで「フィッシャーの原理(Fisher’s principle)」と呼ばれています。
ミシガン大の進化生物学者で研究主任のツァン・ジアンツィー(Zhang Jianzhi)氏は「多くの科学者が何十年もの間、ヒトの性比を決める遺伝的メカニズムについて研究してきましたが、男女比を1:1から変化させる遺伝子変異の明確な証拠は見つかっていません」と話します。
このことから一部の科学者の間では「ヒトの男女比は遺伝子の突然変異の影響を受けないのではないか」と考えられるようになりました。
つまり、生まれてくる子供の男女比を偏らせる遺伝子変異はないということです。
しかしフィッシャーの原理の説明を見ると「自然選択は希少な性の出生を増加させる遺伝子変異に有利に働く」ことが述べられています。
わかりやすく言い換えますと、例えば、ある集団でメスばかりが生まれて、オスの出生数が少なくなると、その種の自然選択はオスの数を増やすための遺伝子変異を選好するようになるということです。
これによりオスの出生数がメスを上回ることで、性比は次第に1:1へと戻っていきます。
この説明を踏まえて、ジアンツィー氏は「フィッシャーの原理が機能するためには、男女の性比に影響を与える遺伝子変異がなければならない」と指摘しました。
こうした遺伝子変異の存在は、男の子ばかりを産む家庭、あるいは女の子ばかりを産む家庭が実際に数多く存在することからも強く示唆されます。
では、男女比の出生数に影響を与える遺伝子変異が見つかっていないのはなぜなのか?
その点についてジアンツィー氏らは、調査対象とする人々のデータ数が少なかったことが原因と推定。
そこで今回は、過去のすべての研究よりもはるかに大規模なサンプルを用いて新たに調査することにしました。