美しさは脳が「驚き」を解決した時に立ち上がる
美しさは脳が「驚き」を解決した時に立ち上がる / Credit:Canva
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美しさは脳が「驚き」を解決した時に立ち上がる

2026.02.10 18:30:46 Tuesday

ふわふわのクッションだと思って手を伸ばしたら、カチカチの石みたいに固かった——。

逆に、ごつごつした岩の塊に見えたのに、指で押すと「ぷにっ」と沈んでびっくりしたことはないでしょうか。

ベルギーのルーヴェン大学(KUルーヴェン)で行われた研究により、この「驚き」と「美しさ」が関連しており、美は単なる「気持ち良さ」とはちがう何かだ、ということが見えてきました。

また研究者たちは論文でも、予想外の驚きをうまく理解し直せたときにこそ、特別な意味での「美しさ」を感じるのだろうと述べています。

「均整のとれた美」という言葉のように、「定番」や「見慣れたもの」から発する美はなんとなく理解できますが、なぜ驚きが美を加速できるのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年1月26日に『Scientific Reports』にて発表されました。

The element of surprise distinguishes beauty from pleasure and interest in visuo-tactile perception of art https://doi.org/10.1038/s41598-026-35622-2

美は「予想外の驚き」の中に隠れているのか?

美は「予想外の驚き」の中に隠れているのか?
美は「予想外の驚き」の中に隠れているのか? / Credit:Canva

パン屋さんのショーケースでふわふわに見えるパンを選んだのに、かじったら意外と固かったことはありませんか。

あるいは、ふかふかクッションだと思って腰を下ろしたら、妙にゴツゴツしていて「え、そうくる?」とちょっとショックを受けたことがある人もいると思います。

こんなとき、私たちの脳の中では「見た目から勝手に立てた予想」が、触った瞬間に裏切られています。

視覚が「きっと柔らかいぞ」と期待させておいて、触覚が「いや、固いです」と報告してくる。

すると脳の中には、小さな「えっ?」マークが立ち上がります。

実はこの「えっ?」が、芸術の世界では昔から大事にされてきました。

20世紀はじめには「触ること」そのものを芸術にしようとした運動があって、マリネッティという芸術家は「触覚の芸術」を宣言するマニフェストまで書いています。

またマルセル・デュシャンの作品には、見た目は砂糖の角砂糖なのに、持つとずっしり重い大理石のキューブが出てきます。

展示室でそれに触った人は、「頭がバグる」ような不思議な感覚を味わうことになります。

最近の現代アートでも、視覚だけでなく、触覚や音、匂いなどいろいろな感覚を同時に刺激する作品が増えてきました。

こうしたの流れのなかで、研究者たちは次のように考えるようになります。

「もしかして、予想外の感覚を出してきて、それを理解できたときの快感こそが、“美しい”の正体の一部なんじゃないか?」

この「予想外→理解できると快感」に注目した考え方を、ある研究者たちは「美的アハ体験」と呼んでいます。

算数の問題で、最初は全然分からなかったのに、ある瞬間に「そうか!」とひらめくと妙に気持ちいい、あの感覚に近いものです。

この理論では、「好き」や「美しい」といった感情も、予測エラーとの付き合い方によっていくつかのタイプに分かれると考えます。

まず「快さ」は、処理がスムーズなとき、つまりほとんど予測エラーがないときに生まれやすい感情です。

見た瞬間に意味が分かる絵や、聴き慣れたメロディーに安心する感じがこれに近いとされます。

これに対して「興味」は、「なんだこれ?」とひっかかることで火がつきます。

予測エラーがそこそこ大きく、「この謎を解いてみたい」と探索モードになるときに強く感じられる感情です。

コラム:心地よさと続編評価の関係

シリーズものの作品で、第一作は大好きなのに、続編を見て「これはもう別物だ」とガッカリした経験はないでしょうか。ネット上でも、「キャラが崩壊した」「世界観をぶち壊された」といった怒りの声が続編に集中することがあります。けれど、少し視点を変えると、この現象は「脳が心地よさを守ろうとした結果」だと説明できるかもしれません。心理学脳科学では、私たちが「快い」と感じるとき、頭の中で情報処理がすっと通り、ほとんどつまずきがない状態になっていると考えられています。これを「処理の流暢さ」と呼びますが、処理が流暢なほど、予想と現実のズレである「予測エラー」が少なくて済むため、脳に負担がかからず、安心していられるのです。好きな作品を何度も見返すのが気持ちいいのは、ストーリーもキャラクターも頭に入っていて、一つ一つの展開を「次はあれが来る」とほぼ完璧に予測できるからだと考えられます。また何度も読み返したり見返したりするうちに、世界のルールやキャラクターの性格、ストーリーの空気感などが、頭の中に「作品のモデル」としてしっかり作られます。すると、作品世界で起こりうる展開を、かなり細かいところまで予測できるようになります。「このキャラは絶対ここでは裏切らない」「この作者なら、こういう安易なハッピーエンドは選ばないだろう」といった期待も、すべてこのモデルから生まれた予想です。ところが続編が登場するとキャラクターの性格が大きく変わっていたり、前作の出来事をあえて否定するような設定変更が入ったり、シリアス作品だったのに急にギャグ寄りになったりすることがあります。すると心地よさを求めていたファンたちの脳の情報処理が混乱し、「もういいや」と拒否反応のまま終わってしまうことも多いのです。作り手にとっては、続編の新鮮さに加えてファンが感じる「心地よさ」に寄り添うことが成功のカギとなるでしょう。

では「美しさ」はどうでしょうか。

研究者たちは、「美しさ」はただの快さよりも一段階むずかしい感情だと考えています。

ただ気持ちいいだけではなく、「よく見るとよくできているな」「この複雑さが分かってきたぞ」といった、ちょっと知的な評価が混じったものだ、というイメージです。

実際近年の研究では、美しさは快さよりも少し“頭を使う”成分が強く、いったん引っかかったものを考え直して、納得できたときに立ち上がることがある、と考えられています。

つまり、美には「すぐ気持ちいい道」と「いったん違和感を抱えて、理解し直す道」の2つがあるかもしれないのです。

ただし、これが“触れるアート”でも本当に起きるのかは、まだはっきりしていません。

日用品や製品の研究では、見た目と触り心地が食い違うと驚きが起こり、それが「楽しい」に転ぶ場合も「がっかり」に転ぶ場合もあることが示唆されています。

でも、アートの鑑賞でそれを脳の反応まで含めて確かめた研究は多くありません。

そこで今回研究者たちは、見た目がそっくりなのに素材が違い、触ると“予想が外れる”作品と、見た目どおりに触れる作品をペアで用意し、触っている最中の脳の反応と「美しさ・快さ・面白さ」の評価がどう結びつくのかを調べました。

次ページ「驚き」と「美」は関連している

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