「恵まれない環境」の方が人助けしやすいと判明
この研究の出発点は、「人はいつ、どんな状況で他人を助けるのか」という素朴な問いでした。
これまでの心理学研究では、独裁者ゲームや信頼ゲームのような経済ゲームを使い、「どれくらい他者にお金を分けるか」がよく調べられてきました。
そのため、利他性は比較的安定した個人の性格や傾向として語られることが多かったのです。
しかし研究チームは、現実の生活場面に目を向けました。
私たちは日常の中で、何かに集中している最中に突然「他人を助ける機会」に出会います。
そのとき、今やっていることを中断するかどうかを瞬時に判断します。
この判断には性格だけでなく、「この先どれくらい良い機会が期待できるか」という、環境からの影響も関わっているのではないかと考えたのです。
そこで研究者たちは、500人以上を対象に3つの実験を行いました。
参加者は自然ドキュメンタリー『Blue Planet II』を視聴している最中に、画面上に「報酬を得るチャンス」が提示されます。
その報酬は「自分のため」か「匿名の他人のため」かのどちらかです。
ただし、そのチャンスを受け入れると映画は一時停止し、ボタンを素早く連打したり、握力計を強く握ったりする身体的な努力をしなければなりません。
つまり、利他的行動には「映画を止める」「疲れる作業をする」というはっきりしたコストが伴うように設計されていました。
さらに重要なのが「環境」の操作です。
参加者は「豊かな環境(rich)」と「恵まれない環境(poor)」の両方を経験しました。
豊かな環境では、金額が大きく、当たる確率も高い“良い機会”が頻繁に現れます。
一方、恵まれない環境では、金額が小さく、当たる確率も低い“悪い機会”が多く提示されます。
どちらの環境でも、提示される報酬は「金額」と「当たる確率」という同じ形式で示されますが、高品質な機会と低品質な機会の出現頻度が異なり、その結果として「平均的な報酬の質」が違ってくるというわけです。
そして実験の結果、参加者は恵まれない環境にいるときの方が、提示されたチャンスを受け入れる傾向が強いことがわかりました。
おおむね同じような報酬条件でも、環境の平均的な質が低い場面では「やってみよう」と思いやすかったのです。
そして、この環境の違いによる影響は「自分のため」の報酬よりも、「他人のため」の報酬で一層はっきり現れていました。
つまり、良い選択肢があまり期待できない環境では、他人を助ける行動が増えやすくなることが示されたのです。
なぜこうした結果になるのでしょうか。具体的に考えてみましょう。




























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