昆虫のハサミに見える大部分は実は「折り畳みナイフ」

皆さんは「ハサミを持つ虫」と聞いて、まず思い浮かぶのはハサミムシではないでしょうか。
その名のとおり、お尻の先端にしっかりとした”ハサミ”がついた、ちょっと変わった見た目の小さな虫です。
ところが、ハサミムシのあのトレードマークのハサミ、実は脚ではありません。
お尻の先端にある特殊な突起(尾鋏:びきょう)が、ハサミのような形に進化したものなのです。
つまり今回の研究のテーマである「前足のカニ型ハサミ」とは、ぜんぜん別の話です。
そう言われると、クワガタムシの立派な大顎(おおあご)も「あれはハサミなのでは?」と思うかもしれません。
でもあれは、口のまわりの顎(あご)が大きく発達したもの。
これもまた、脚ではありません。
つまり「昆虫の前足が、カニのハサミみたいな形に進化する」というのは、それだけで実はかなり珍しい現象なのです。
では、「前足で獲物を挟む昆虫」というと、何が思い浮かぶでしょうか?
たとえばタガメ。
日本最大の水生昆虫で、太い前足でカエルや小魚までガッチリ捕まえて食べてしまう、まさに「水の中の暴れん坊」です。
タガメが獲物に襲いかかる瞬間、両側から太い前足をガシッと組み合わせる姿は、まるでカニが大きなハサミで獲物を捕らえているかのよう。
ところが──タガメの前足も、厳密に言うと「ハサミ」ではないのです。
よく観察すると、タガメの片方の前足は、折りたたみナイフのように、上半分と下半分がパタンと折りたたまれる仕組みになっています。
ハサミというより腕の曲げに近い動作で獲物を捕らえるわけです。
一方、カニやロブスターのハサミは違います。
1本の脚そのものに、根元のほうにも”固定の指”がしっかり突き出ていて、もう一方の”動く指”と向かい合ってパチンと閉じます。
指と指が正面でかみ合う真のハサミです。
論文では本物の「ハサミ」と「折りたたみナイフ」を区別する、シンプルなルールがあります。
文房具のハサミのように、動く指が前方に向かって閉じるのが本物のハサミ(鋏脚)。
ポケットナイフのように、動く指が手前にパタンと倒れるのが折りたたみナイフ式(亜鋏型)。
動く部分があくまで腕の前方にあるか、腕のほうまで回り込んで来るかの違いとも言えます。
「どちらも結局は挟むのだから両方ハサミでいいのでは?」と思うかもしれませんが、真のハサミはあくまでハサミ部分でつかみ、偽物のハサミは腕を使ってつかむという点で大きく異なります。
地球上には100万種以上の昆虫がいると言われていますが、その膨大な顔ぶれの中で、本物の「ハサミ」を備えているとされるグループは、これまで以下の3つだけでした。
アザミウマの仲間 ── メスだけがハサミを装備
カマバチの仲間 ── こちらもメスだけ
カニカメムシの仲間 ── 待ち伏せ型の小さなハンター
加えて著者らも自分たちが知る限り、化石からカニ型のハサミ(鋏脚)を持つ昆虫が発見されたことは、これまでにないと述べています。
しかし1億年前の琥珀に例外が潜んでいました。




















































