「すべては極小のひもの振動」これが弦理論

「宇宙にあるすべては、目に見えないほど小さな”弦(ひも)”の振動でできている」——ひも理論(弦理論)とは、そういう有名な仮説です。
私たちの体も、机も、空気も、細かくたどっていくと「原子」という小さな粒にたどり着きます。
その原子の中心には「陽子」などの粒があり、陽子はさらに「クォーク」というもっと小さな粒からできています。
ところが弦理論が語る弦は、その比ではありません。
物理学には「プランク長」と呼ばれる、「ここから先は”距離”という概念そのものが怪しくなる」とされる長さがあります。
その大きさは約 1.6 × 10⁻³⁵ メートル。
陽子と比べても、さらに約1垓(がい)分の1という小ささです。
弦は、まさにこのプランク長あたりの、想像を絶するスケールに潜んでいると考えられています(※厳密には多少ずれますが、”けた”レベルではほぼ同じです)。
そして、この小ささこそが、弦理論の正しさを確かめるうえで大きな壁になっていました。
科学では、仮説が正しいかどうかは、最後は「実験」で確かめられます。
たとえば「物体は本当に原子でできているのか?」という問いも、20世紀初頭、アインシュタインが理論で道を示し、ペランらの実験が「YES」と決着をつけました。
特に近年では、ナノチューブに閉じ込めたクリプトン原子が動くようすを、高エネルギーの電子線でリアルタイムに撮影するところまで来ていおり、視覚的にも「原子の粒が動いている」ことを実感できるようになってきました。

弦理論も、弦の存在を実験で直接とらえられれば「決着」がつきます。
ところが、プランク長ほどの弦となると、そうはいきません。
意外に思えるかもしれませんが、小さなものを見るには、大きなエネルギーが必要になります。
リンゴを見るだけなら、遠くの太陽が届けてくれる光(可視光)で十分です。
しかし原子を見るには、波長のうんと短い電子を使う「電子顕微鏡」が要ります(※電子には波としての性質があるのですが、その波長はかなり短くなります。)。
この”階段”を上ってみましょう。
さらに原子の中の陽子をのぞくとなると、粒子加速器のような巨大な施設が必要になります。
そして、弦が属するプランク長クラスの世界はさらにその1亥分の1の大きさです。
このレベルの小さなものを確かめられる加速器をつくろうとすると——なんと、銀河ひとつ分ほどの大きさが必要になる、と見積もられています。
電子よりも遥かに巨大なリンゴサイズの質量を量子的な波(物質波)として扱えるリンゴ顕微鏡のようなものがあれば、その波長は極めて短く弦が観測できるレベルに届きはしますが……それを弦の観測のために1点に集中するビームにしようとすると、狭い場所にエネルギーが詰め込まれ過ぎて「ブラックホール」になってしまいます。
つまり弦理論は、「正しいかもしれないけれど、人類にはまだ確かめようがない」理論なのです。
実験ができないのなら、もう打つ手なしだ……と思うかもしれません。
ところが、そうとも限りませんでした。
物理学者たちは、まったく別の角度から、この理論に切り込んだのです。

























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