自然環境ではオスマンモスの骨のほうが残りやすい

絶滅した動物のなかで、マンモスは骨がとびきりよく見つかる動物です。
シベリアの川岸や溶けはじめた凍土からは、いまも牙や臼歯が掘り出されます。
博物館で全身の骨格と対面できる機会も、めずらしくありません。
ところがマンモスには、そうしたきれいな1体としてではなく、一か所に何十頭分もの骨がまとまって出てくる場所があります。
たとえばポーランドのクラクフ・スパジスタ遺跡では少なくとも113頭分、チェコのプシェドモスティI遺跡にいたっては1000頭分を超えると見積もられています。
そうした骨の山のそばには、たき火の跡や人が暮らした跡の層が残っていることが少なくありません。
骨そのものからも、切り傷や、砕かれた跡や、刺さったままの石の穂先が見つかることがあります。
そのためこのような場所は人類による「貝塚ならぬマンモス塚」的なものであるとする説が唱えられています。
しかし、本当に人類によるマンモス塚なのかどうかは決め手に欠けていました。
実際、もともと自然に骨が溜まっていた場所に人間があとから住み着き、材料として拾っていたという可能性も提示されています。
本研究の責任著者の一人であるダビド・ディエス・デル・モリノ氏も「この巨大なマンモスの骨の集積が自然にできたものか、人間の狩りによるものかは、何十年も議論されてきました」と述べています。
そこで研究チームが選んだのは、骨から性別を読み取るという方法でした。
手がかりは、マンモスの暮らし方にあります。
マンモスは現代のゾウとよく似た社会を持っていたと考えられています。
ゾウのメスは母親や姉妹、その子どもたちと群れをつくり、一生をその中で過ごします。
一方オスは、13歳から15歳ごろになると群れを離れ、そこから先はほとんど一頭で暮らします。
そして一頭で歩くオスは、危ない場所にも入り込みます。
遠くまで歩き、争いも辞さないオスのほうが、結果として多くの子を残せるからです。
その結果、陥没穴、崖崩れ、泥沼、タールの池といった「はまったら出られない場所」で死ぬのは、大きくオスに偏ります。
ですがこの「はまったら出られない場所」は骨が残りやすい場所でもありました。
泥や土砂に早く埋もれた骨は、野生の肉食獣に食い荒らされたり風雨で風化したりすることなく、そのまま何万年も土の中で保たれることがあるからです。
一方で群れ生活の中で死んだ場合、骨は食い荒らされたり風化したりで残りにくくなります。
つまり化石として出てくるマンモスは、一人歩きの末に危ない死に方をしたオスマンモスの比率が高いと考えられます。
実際、研究者たちが人間の痕跡とは無関係な場所でばらばらに見つかった421頭のマンモスのDNAを分析したところ、およそ3分の2(66.5%)がオスでした。
また北米、ヨーロッパ、シベリアと地域を分けて数え直しても、この偏りは同じままでした。
シベリアだけにオスが死にやすい沼地があった、というわけではないのです。
同様の傾向は、他の種でも確認されており、ステップバイソンやヒグマの化石でも、オスが多いことが知られています。
つまり「人間が介在しない自然な環境の場合、骨の3分の2はオス」というパターンがあるということです。
そこで研究者たちは、このパターンがマンモス塚に当てはまるかを調べてみることにしました。
もし「3分の2がオス」という結果が出たなら、マンモス塚もまた自然にできた骨の山だった可能性が高くなります。


























