低・中所得国では76%も増加
GRAMプロジェクトは、統計的モデリング技術を用いて、低・中・高所得国における大規模な世帯調査、医薬品販売データ、世界保健機関(WHO)や欧州疾病予防管理センター(ECDC)による抗生物質の消費データなどを採用しました。
本調査では、世界各国の抗生物質の消費量の比較において、WHOの指標である人口1000人あたりの1日の投与量(DDD、defined daily dose:1日仮想平均維持量)を用いています。
その結果、以下の9つのことが明らかになりました。
・北米、欧州、中東では抗生物質の基本的な消費量が多く、サハラ以南のアフリカや東南アジアの一部では消費量が非常に少なかった
・抗生物質の総消費量は、人口1000人あたり1日5.0DDDから45.9DDDと、国によって約10倍の差があった
・2000年から2018年の間に、世界の抗生物質消費率は46%増加していた(1000人あたり1日9.8DDDから14.3DDDへ)
・高所得国では、2000年から2018年にかけて消費率は安定していた
・低・中所得国では、2000年から2018年の間に76%増加していた(1000人当たり1日7.4DDDから13.1DDDへ)
・消費率の最大の増加は、北アフリカ・中東域(111%)と南アジア(116%)
・地域によって、使用されている抗生物質の種類の割合に大きな違いがあった
・ペニシリンの消費率は、高所得者層で最も高く、低所得の南アジアでは最も低い
・南アジアでは、調査期間中、フルオロキノロン系抗菌薬の使用率が1.8倍、セファロスポリンの使用率が37倍に増加
つまり、先進諸国での抗生物質の消費量に大きな増加はなく、発展途上国で相当な増加傾向が見られるが、それでもまだ消費量にかなりの差があるということです。
研究チームのアニー・ブラウン(Annie Browne)博士は「抗生物質の消費パターンを理解することは、薬剤耐性菌感染症との闘いから、基本的な治療の提供まで、多くの公衆衛生上の課題に対処するのに役立つ」と指摘。
また、研究主任で、GRAMプロジェクトの責任者であるクリスティアン・ドレチェク(Christiane Dolecek)氏は、次のように述べています。
「抗生物質の不必要な需要を抑え、抗菌耐性に対抗するには、飲料水や生活空間の衛生環境、ワクチン接種率、迅速な診断テストの利用可能性を向上させることが肝心です。
それと同時に、必要な時に必要な場所での抗生物質の入手と管理を強化することも不可欠でしょう」
抗生物質は、感染症に対する有効な武器ですが、正しく使わないと薬剤耐性菌の増加や、逆に健康リスクにつながる可能性もはらんでいます。
貧困国にも医療が浸透していることが示されたのは喜ばしいことですが、それと共に扱いの難しい抗生物質について、医療者にはより慎重な運用が求められているのかもしれません。