サナダムシの感染による「神経嚢虫症」とは
搬送後、MRIとCTで男性の脳をスキャンしたところ、3カ所に異変が見つかりました。
サナダムシの幼虫が血流に乗って脳内に侵入し、そこでシスト(嚢胞・のうほう)という休眠状態となって、病変を引き起こしていたのです。
これを「神経嚢虫症」と呼びます。
神経嚢虫症は、加熱が不十分の豚肉や生野菜に寄生していたサナダムシの卵が、体内に入り込むことで生じる感染症です。
実は、腸内で孵化したサナダムシがその場で成虫になっても大きな害はありません。
しかし、幼虫が血流を通して脳や脊髄に入り、シストを形成すると、神経嚢虫症を引き起こします。
神経嚢虫症は、感染した場所やシストの数によって、症状の深刻さが変わってきます。
よくある症状は、てんかん発作と頭痛ですが、今回の男性のように、せん妄や注意欠陥、バランス感覚の喪失などもあり得ます。
特に、衛生面で問題のある発展途上国で多く、成人後に発症するてんかん発作の大部分が、神経嚢虫症と言われているほどです。
男性の感染は20年前?
では、アメリカで長年暮らし、健康にも問題がなかった男性は、どこでサナダムシに感染したのでしょうか。
それについて、医師チームは「20年ほど前だ」と推測します。
実は男性は、20年前まで中南米グアテマラの農村部に在住しており、のちにアメリカへと移住しました。
おそらく、グアテマラに住んでいた時に、農作物か飲み水からサナダムシが体内に入り込んだと考えられています。
研究主任で、マサチューセッツ総合病院のエドワード・ライアン(Edward Ryan)医師は、こう述べています。
「男性の脳内に見られた寄生虫は、すでに死んで石灰化して、感染はとうの昔に終わっていました。
サナダムシの幼虫はシストを形成すると、数ヶ月から長くて数年間も休眠状態に入ります。
通常、5~10年のうちに体内で死滅しますが、死後に有害物質を発生させ、炎症を起こし続け、頭痛や痛み、発作を引き起こすのです。
男性も同じ原因で脳の一部が傷ついており、その部分が発作に繋がっていました。
感染から20年近く後に症状が出るのは遅いですが、決して珍しいことではないそうです。
治療法としては、抗寄生虫薬と抗炎症薬が有効ですが、感染状態が深刻な場合は、手術で直接シストを取り除かなければなりません。
また、発作を抑えるために対症療法として、抗てんかん薬を使用することもあります。
男性は入院後、投薬治療を受けて順調に回復し、すでに退院しているとのことです。
サナダムシの感染予防には、豚肉を十分に加熱することや、生野菜をよく洗うこと、それから食事や調理、トイレ後に手を洗うことが推奨されています。