どんな「香り」を放つ?
アンバーグリスの香りの背後には、さまざまな化学物質が存在しています。
ジャスミンオイルとアンバーグリスは同じ量の化学成分を持っていますが、アンバーグリスの香りには指標となるものがないため、他の香りと同一視したり、例えることができません。
また、排出されたばかりの新鮮なアンバーグリス(黒や茶褐色)は、よい香りがせず、動物的で刺激的な糞尿の匂いがします。
これは、海中での熟成期間が短く、アンブレインの含有量が少ない低級なアンバーグリスです。
標準的なアンバーグリスは、外観が灰白色で、海の中でよく熟成されており、豊かな土の香りや塩の香りがします。
また、海水やバニラ、干し草のような微妙な香りのニュアンスも放つようです。
そして、純白のホワイトアンバーグリスは、すべての中で最も洗練された香りを放ちます。
甘くて明るい香りを持ち、高級ブランドは香水の香りを持続させる保留剤としてよく使用しています。
過去にはどのように使われてきたか
歴史の裏話ですが、16世紀前後のイングランド女王・エリザベス1世は、アンバーグリスを手袋に塗っていたそうです。
これはただ心地よいからでなく、香りが驚くほど長続きするためでした。
一度アンバーグリスを塗ると、何度洗っても何年も香りが持続すると言われています。
また、アンバーグリスは、非常に古くから人々に重宝されてきたものです。
たとえば、古代エジプトでは「お香」として使われましたし、ヨーロッパの黒死病の時代には、アンバーグリスを持っていればペストにかからないと信じられていました。
古代の中国人は、アンバーグリスを ”龍の唾液の香り”と称し、日本における「龍涎香(りゅうぜんこう)」という呼び名はここからきています。
さらに、アンバーグリスを媚薬や、頭痛・風邪・てんかんなどの治療に使う文化もあったようです。
まとめ
アンバーグリスを作ることができるのは、世界のマッコウクジラのうち、100頭に1頭の割合です。
また、アンバーグリスを期待して、絶滅危惧種であるマッコウクジラを捕獲することはできません。
ワシントン条約(CITES、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)では、アンバーグリスは糞や尿といった生物の廃棄物と同様に「発見されたもの」であると規定されています。
そのため、アンバーグリスの売買は、海辺で偶然に発見されたものに限り、合法となります。
ですから、もし海辺を散歩する機会があれば、ヘンな匂いのする石を探してみてください。
運がよければ、新車を一台買えるほどのアンバーグリスに出会えるかもしれません。