もっとも古い太陽系の資料
小惑星リュウグウから回収されたサンプルの詳細分析が完了し、今月2本の論文としてその結果が発表されました。
リュウグウ(199 JU3)は、直径約900メートルの地球軌道と火星軌道の間を周回する小惑星です。
2020年の12月6日、JAXAの運用するはやぶさ2は、この天体のサンプルを地球へ持ち帰ることに成功しました。
これ以前にも、「はやぶさ」が初めて小惑星のサンプルを持ち帰っていますが、このときターゲットとされた小惑星イトカワは「S型小惑星」と呼ばれるタイプでした。
「S」とはStony(石質)やSilicaceous(ケイ素質)を意味していて、岩石質の小惑星であることを示しています。
一方、「リュウグウ」は表面の岩石中に有機物を多く含むと考えられる「C型小惑星」というタイプです。
「C」はCarbonaceous(炭素質)の意味です。
こうした小惑星は「炭素質コンドライト」と呼ばれる隕石の故郷だと予想されています。
「炭素質コンドライト」は有機物のほかに水を多く含むもので、地球へ海や生命をもたらした原料だったと考えられているのです。
またC型小惑星は、S型小惑星より太陽系初期の情報を多く保っていると考えられています。
そのため、リュウグウのサンプルは、約45億年前の太陽系形成時の物質をそのまま残す貴重な資料であり、地球の誕生した過程を理解する上でも重要な手がかりになると期待されているのです。
また、はやぶさが実施したイトカワのミッションでは、回収プロセスが完全に機能せず、持ち帰られたサンプルは、ほんの僅かな微粒子のみ(マイクログラムオーダー)でしたが、はやぶさ2は、回収サンプル量0.1gという目標に対して、5.4gものサンプルを持ち帰ったのです。
このサンプルを分析した、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の矢田達(とおる)氏らのチームの最初の論文では、リュウグウは非常に暗いことがわかりました。
通常、炭素を多く含むC型小惑星のアルベド(太陽光反射率)は0.03~0.09とされていますが、リュウグウのアルベドは0.02でした。
これは受けた太陽光の、わずか2%しか反射しないことを意味しています。
ちなみにアスファルトのアルベドは0.04です。
アスファルトの地面もかなり黒いですが、リュウグウはそれよりももっと真っ黒ということになります。
また、リュウグウは非常に多孔質であることも判明しました。
測定によると、リュウグウの気孔率(固体部分と隙間の比率)は46%でした。
これは小惑星ではやぶさ2が行った測定や、遠隔観測の結果とも一致しています。
もう1つの論文は、フランスのパリ=サクレ大学(Université Paris-Saclay)の天文学者セドリック・ピロジェ(Cédric Pilorget)氏らの研究チームから発表されていて、サンプルの組成を明らかにしています。
ここでは、サンプルがさまざまな有機物が埋め込まれた粘土のような水和組成物からなると述べられています。
しかし、部分的には炭酸塩や揮発性化合物など異なる物質で構成されていたとのこと。
これらの発見は、リュウグウのサンプルが微視的には不均質組成であることを明らかにしています。
巨視的にはリュウグウは均一な構造と組成を持っており、1938年にタンザニアに落下したイヴナ隕石のような炭素質コンドライト隕石によく似ているようです。
しかし同時に、こうした一般的な炭素質コンドライトよりも暗く、多孔質で壊れやすいものであることも示唆されています。
これは太陽系の起源と進化を研究するための、現在唯一の収集物です。
現在は詳しい組成の分析の報告にとどまっていますが、ここから初期の太陽系で形成された天体や塵の構成や、地球に海や生命がもたらされた過程などの詳細が明らかになるかもしれません。