「うずくまり姿勢」は現代のニワトリと一緒
研究主任で、エディンバラ大学(University of Edinburgh・英)の古生物学者スティーブ・ブルサット(Steve Brusatte)氏は、こう述べています。
「卵の中の恐竜胚は、私が今まで見た中で最も美しい化石の一つす。
この小さな胎生期の恐竜は、卵の中で丸まった鳥類の胚にそっくりで、現在の鳥の特徴の多くが、恐竜の祖先で最初に進化したことを示しています」
調査の結果、卵の中に横たわる恐竜は7200万〜6600万年前のもので、オヴィラプトロサウルス類と同定されました。
オヴィラプトロサウルスは、羽毛恐竜のグループで、歯のない、オウムに似たクチバシを持ち、種によっては凝ったトサカも備えていました。
他の非鳥類型恐竜と同様に、白亜紀末の約6600万年前に小惑星の衝突で絶滅しています。
鳥類はそれ以前に進化したグループで、なんとかこの絶滅イベントを乗り切ることができました。
同チームで、バーミンガム大学(University of Birmingham・英)のワイサム・マ(Waisum Ma)氏は、次のように指摘します。
「恐竜胚が鳥のような姿勢で横たわっているのを見て非常に驚きました。この姿勢は、これまで非鳥類型恐竜では確認されていません。
過去に発見された非鳥類型恐竜の胚のほとんどは不完全であり、残された骨格もバラバラでした。
しかし、この卵の化石には史上最も完全な状態の胚が保存されており、うずくまる姿勢が、現代の鳥類の起源より前に進化した可能性を示唆しています」
恐竜胚は、頭〜尾までの長さが約23.5センチで、それより7センチほど短い卵の中に収まっていました。
チームは、残された骨格から、25秒ほどのリアルなデジタル復元図を作成。
これを見れば分かるように、爪のある前肢は頭蓋骨の両脇に置かれ、頭は腹部の方に向けて丸まっています。
この姿勢は鳥類に特有のもので、鳥類は体を曲げ、頭を翼の下に隠して孵化の準備をします。
「ベイビー・インリャン(Baby Yingliang)」と名付けられた恐竜胚の正確な発生段階は不明であり、うずくまる姿勢が、他の絶滅恐竜たちにも共通していたのかは分かっていません。
それでも、この極めて精巧に保存された胚は、恐竜の発生と進化について貴重な洞察を与えてくれる標本です。
現生鳥類との比較でも、ベイビー・インリャンの姿勢は、孵化する数日前のニワトリの胚とほぼ同じであることが明らかになりました。
これらの分析から、チームは、うずくまる姿勢が初めて進化したのは、鳥類の登場よりはるか以前であると推定しています。
一方で、この説を実証するには、肉食と草食を含む広範囲の恐竜胚を検討する必要があります。
チームは今後、さまざまな画像処理技術を用いて、まだ岩に覆われている他の骨格部分を明らかにしていく予定です。