手をそえた物体に対して注意力が上がる!
「指さし確認」などに代表される手の動きを用いた注意動作は、工事現場や車両点検など、さまざまな場面で広く利用されています。
指さし確認の効果は非常に高く、手の動きを注意対象に差し向けながら声を発するといった単純な方法でありながら、作業ミスを6分の1に減らす効果があると報告されています。
2006年から2018年の間に行われたいくつかの研究では、手を対象にそえるだけで、視覚的な探索能力、地図や図形の把握能力、記憶能力が向上することが示されています。
また実生活においても、重要な情報が込められた文章や物体に接したとき、自然と対象に手や指を近づけることがあるでしょう。
このことは、人間の脳にとって、そえられた手の周辺が情報処理を加速する特殊な空間に変化することを示唆します。
しかし、これまでの研究では、単に意識を向ける注意(トップダウン型注意)と、手をそえる注意(手の近接型の注意)が本当に別質であるかは明らかにされていません。
また重要なのは、見える手の存在そのものなのか、あるいは手がそえられているという体感なのかも不明でした。
そこで今回の研究では、高速回転する棒を映すスクリーンの裏に手を配置し、合図が与えられた瞬間の「棒の角度」を答えてもらう実験を行いました。
このスクリーンは不透過であるため、実験参加者は自分の手を直接見ることはできません。
参加者に求められるのは、右手か左手の一方をスクリーンの裏に差し出すことと、スクリーンの上で回転する棒の角度を答えることだけでした。
すると、回転する棒とスクリーン裏の手の位置が近いときに、回答する角度の正確さが増すことが判明したのです。
この結果は、手をそえることで得られる注意力は、視界内に手が入っていることが重要なのではなく、手を近づけているという実際の体感が重要であることを示します。
また結果を分析すると、回転する棒が参加者からみて右側にあり、右手をそえている「右手右側条件」が最も正確性を上げることが判明します。
しかし、より興味深い発見は、利き腕の違いにみられました。
右利きの人と左利きの人では、手をそえることで上がる注意力に差があったのです。