最後の季節は「北半球の春」
本研究では、米ノースダコタ州南西部の「タニス(Tanis)」という場所にある、K-Pg境界(隕石の落ちた白亜紀末と古第三紀を分ける境界)の地層から出土した6匹のチョウザメの化石を調査しました。
2008年に見つかったタニスの堆積物は、隕石衝突の直後に起こった破壊現象を残していることがわかっています。
メリーランド大学(University of Maryland・米)の古生物学者であるトーマス・ホルツ・ジュニア(Thomas Holtz Jr.)氏は「これらのチョウザメは、落下地点に近い場所で死んだようだ」と話します。
というのも、化石のエラを調べたところ、「スフェルール」と呼ばれる小さな粒子が見つかりました。
スフェルールは、隕石衝突で溶けた岩石が上空で冷えてできる粒子のこと。
消化器官からは見つからなかったため、エラで吸い込んだ後に即死したと思われます。
「骨の年輪」から季節を特定!
重要な点は、チョウザメの骨の成長速度が季節によって異なり、樹木の年輪のような成長パターンが骨に残されることです。
これには一般に、骨の成長が活発であることを示す「太い帯」、成長が遅いことを示す「細い帯」、冬場や飢饉、干ばつの時期を示す「成長停止線」などがあります。
6匹のチョウザメの化石を分析した結果、死亡時期が(メキシコを含む北半球における)春だったことが判明しました。
骨の最外層を見ると、前年の成長サイクルで見られたピーク時の成長率にまだ達していないパターンが確認されています。
これはチョウザメが死んだとき、骨に記録された最後の成長サイクルは、成長率がピークを迎える夏場の前、つまり「春」であるということです。
また、骨に見られた成長停止線は規則的で、死亡時に、干ばつや飢饉には苦しんでいなかったことが示されています。
まだまだ元気だった時期に、突然の隕石落下に見舞われたようです。
季節の特定は何の役に立つ?
季節を特定することは、世界中の生物が隕石衝突後に生き残る、あるいは絶滅するパターンを説明するのに役立ちます。
たとえば、北半球の冬を地中で過ごす生物は、春に地上に出て活動を開始するため、特に被害を受けやすかったでしょう。
多くの生物は、春に繁殖して数を増やします。
そのため、特に北半球にいた恐竜たちは、まだ幼い子どもや卵が衝突後の気候変動に直面し、絶滅に追いやられやすかったでしょう。
一方、隕石衝突時に秋だった南半球ではどうか。
たとえば、その後に続く季節を冬眠で過ごす哺乳類などは影響が少なく、生き延びる確率が高まったと見られます。
ただし、衝突の影響で舞い上がった大量のチリにより、地球全体の気温が低下して、その煽りを受けたのは間違いありません。
南半球にいた恐竜たちの絶滅が、それを雄弁に物語っています。
ホルツ氏は今回の結果を受け、「6600万年以上の時間が経過しているにもかかわらず、地球最悪の日を調べて、それがどの季節であったかを特定できたのは実に驚くべきことだ」と述べています。
当時の春が今と同じかどうかはわかりませんが、恐竜たちは、ほがらかな春の陽光の中で最後を迎えられたと信じたいものです。