バナナの香りにはオスマウスの児童虐待を防ぐ効果がある
発見は偶然からはじまりました。
マギル大学の研究者たちは以前からマウスの体や排泄物が発する化学物質が他のマウスに与える影響を調べていました。
ですがある日、妊娠中のメスマウスを使った実験を準備していると、隣のゲージで飼われているオスマウスに奇妙な行動変化が起こることに気が付きました。
研究者たちがオスマウスの動きを観察したところ、オスのみせる行動は、ストレスを受けているときのものと酷似していることが判明します。
そこで興味をもった研究者たちは、妊娠前後のメスマウスにオスマウスを近づけて、生理学的な変化が起こるかを確かめました。
結果、妊娠中および授乳中のメスマウスに近づけられたオスマウスでは、ストレスホルモンとして知られるコルチコステロイドの血中濃度が増加していることが判明。
また痛覚の敏感さを測定したところ、オスマウスたちの痛覚が鈍くなっていることが判明します。
このような変化は通常、強いストレスを感じているときにみられるものです。
(※ストレスホルモンは体を戦いに備えさせ、痛みに鈍感になることで敵に打ち勝ちやすくなる効果があります)
そこで研究者たちは、メスマウスが分泌する尿を採取して、妊娠中および授乳中に起こる成分変化を調査しました。
マウスにとって尿は嗅覚を使ったメッセージの伝達媒体として使われていることが知られていたからです。
結果、妊娠中および授乳中の母マウスの尿には「バナナの香り」成分として有名な「酢酸アミル」が増加していることが判明します。
しかしこの段階では、酢酸アミルがオスマウスにストレスを与えているかは不明でした。
そこで研究者たちは地元のスーパーマーケットでバナナ油を購入し、オスマウスに嗅がせてみました。
するとバナナ油によってオスマウスのストレスレベルを有意に増加していることが判明。
また酢酸アミルの香りに晒されてからわずか5分でオスマウスの痛覚が鈍化しはじめ、影響が和らぐには60分かかることが判明しました。
この結果は、酢酸アミルによってオスマウスの体が戦いに備えたストレス状態にあることを示しています。
研究者たちは、メスマウスの発する酢酸アミルはオスマウスに対して、あたかも戦いの前のようなストレス状態を誘発することで「子供たちに近づいたら攻撃する」というメッセージを伝えているのだと結論しました。
実際、妊娠中および授乳中のマウスに「見知らぬオスマウス」と「父親マウス」の2種類のマウスを接近させたところ「見知らぬオスマウス」を接近させたときに、より頻繁に尿でマーキングを行うことが判明しました。
しかしより興味深いのは、オスの交尾経験によって効果が違う点にありました。