美しくない魚ほど、絶滅危惧レベルも高かった
研究チームは今回、サンゴ礁に生息する魚を対象に、種ごとの「美的評価」および「絶滅危惧レベル」を比較しました。
まず、2019年の調査で、約1万3000人の一般人に、オンライン上で得られた魚の画像481枚について美的評価をしてもらっています。
それぞれの画像は背景を取り除き、すべての魚が同じ方向を向き、カメラの視点も同じものだけを選んで、平等に評価してもらいました。
次に、ここで得られたデータを人工知能ツールである「畳み込みニューラルネットワーク(ConvNet)」に学習させます。
ConvNetは、データから直接学習できるディープラーニングシステムで、画像の中から特定のパターン(顔や障害物など)を見つけるのに有効です。
自動運転や顔認証アプリなどに応用されています。
学習完了後、ConvNetに、サンゴ礁で最もよく見られる魚2417種、約4400枚の画像について、美的評価づけをさせました。
そして、一般人とConvNetの評価を総合した結果、カラフルで明るく、体が丸みを帯びている魚種ほど、美的評価が高くなると示されています。
反対に、色合いが地味な魚種ほど、美的評価が低くなると判明しました。
たとえば、カラフルなモンガラカワハギ科(Balistidae)やチョウチョウウオ科 (Chaetodontidae))は、もっぱら美的評価が高く、地味なアジ科(Carangidae)やクロサギ科(Gerreidae)は、評価が低くなっています。
さらに、これらの魚種を、国際自然保護連合(IUCN)が保全状況を評価する「レッドリスト」でのランク付けと比較。
すると、「絶滅危惧種」に分類される魚は、「軽度懸念種」に分類される魚に比べ、美的評価の低いものが多いと判明したのです。
加えて、美的評価の低い魚種ほど、系統的に孤立している傾向にあり、より特徴的な進化を遂げていることが示されました。
これは、美しくないと評価される魚の方が、サンゴ礁の生物多様性への貢献度が高く、サンゴ礁の繁栄により大きな役割を担っていることを意味します。
さらに、魅力的でない魚の方が、漁業的な価値が高く、漁獲による減少にさらされやすいことも明らかになりました。
これらの結果を総合すると、一般に「地味で醜い」と評価される魚の方が、保護の優先順位は高くあるべき、と考えられます。
しかし、世間の注目は基本的に美的評価の高い魚に集まりやすく、より危機レベルが高いと考えられる地味な魚の保護が優先されることはあまり無いようです。
研究主任のニコラス・ムーケ(Nicolas Mouquet)氏は、今回の結果について、「美的評価・生態系での役割・絶滅危惧レベルに関する、私たちの認識のミスマッチは、本来最も保護を必要とするはずの種が、公的支援を受けにくくなっている可能性を浮き彫りにした」と述べています。
美しい生き物の保護はもちろん大切ですが、見た目に惑わされて、判断を誤らないよう気をつけたいところです。