姿勢が見え方に大きな変化を与える
研究チームは、前述したネッカーキューブを用いて、参加者の姿勢が知覚内容にどのような変化を与えるか調査しました。
この実験では、バーチャルリアリティ空間にネッカーキューブを配置。
参加者から5つの角度(60度、30度、0度、-30度、-60度)で見えるようパターン分けして、それぞれがどのように知覚されるか尋ねました。
ネッカーキューブの画像はどれも同じなので、単純に首の角度の違い(見上げるか、見下ろすか、まっすぐ見るか)による影響が調べられるのです。
そして実験の結果、見下ろす姿勢のときと、見上げる姿勢ときでは、キューブの見え方が参加者それぞれで有意に偏っていたのです。
こうした差は、水平にネッカーキューブを見たときには現れませんでした。
つまり私たちは、姿勢によっても知覚内容が変化していたのです。
最初に述べた通り、私たちは立方体をどの角度から見た記憶が多いかによって、ネッカーキューブの見え方を決定していました。
しかし、立体を見るときはその角度によって、私たちの姿勢も変化します。
ティッシュ箱を見るときは首が下を向いているでしょうが、高い棚からダンボールを下ろすときは、首が上を向いていて、下から箱を見ているはずです。
そのため、同じ姿勢を再現することで、ネッカーキューブの見え方は、それに応じて変化したのです。
この結果は、人間の脳が知覚内容を決定するときに、周囲の色や明るさ、また記憶や経験などの情報に影響されるだけでなく、それを見るときの姿勢(身体情報)も影響していることを示しています。
こうした研究成果は、今後、人間の視覚をモデル化する際に役立つことでしょう。