プレシオサウルスは淡水にも完全適応していた!
プレシオサウルスは、1821年にイギリスの著名な化石ハンターであるメアリー・アニング(Mary Anning、1799〜1847)によって初めて発見されました。
小さな頭、長い首、4つのヒレを持つこの水生爬虫類は、当時の古生物界に衝撃をもって迎えられたようです。
その後の調査で、プレシオサウルスは、中生代の三畳紀後期〜白亜紀後期(約2億年〜6600万年前)までの約1億5000万年間を生きたことがわかっています。
プレシオサウルスは、イギリスのネス湖で目撃されたネッシーのインスピレーション源になったと言われますが、ネッシーとは違い、「海洋に生息していた」というのが定説です。
ところが今回の発掘調査で、モロッコ東部にある白亜紀中期の地層「ケムケム(Kem Kem)累層」から、約1億年前のプレシオサウルスの骨断片が発見されました。
発掘現場は、かつて河川域であったことがわかっており、回収された化石には、首や背中、尾の脊椎骨、生きている間に抜けた歯、幼体の上腕骨などが多数含まれています。
研究主任のニック・ロングリッチ(Nick Longrich)氏によると、これらの化石は、同一個体のまとまった骨格標本ではなく、バラバラに散在していた骨断片であるため、全部で十数体のプレシオサウルスが含まれているとのこと。
しかし、ロングリッチ氏は「生物がどこで死んだかを教えてくれる骨格標本とは別に、それぞれの歯や骨断片は、それらの生物が生きている間に、どこでどのように暮らしていたかを教えてくれる貴重な情報源になる」と話します。
分析の結果、化石の中から、体長3メートルの成体と体長1.5メートルの幼体のプレシオサウルスが特定されました。
また、このプレシオサウルスは、同じ水生爬虫類の中では首の短い「レプトクレイドゥス(Leptocleididae)科」に属することが判明しています。
レプトクレイドゥス科は、今日のイギリスやアフリカ、オーストラリアの海域に生息していました(下図の青色)。
対して、首の長いグループは、今日のアメリカや中国の海域を中心に分布したことがわかっています。
さらに、歯を詳しく調べてみると、激しい摩耗や消耗の痕跡が見られました。
これは、淡水域に適応した肉食恐竜のスピノサウルスに見られる特徴と同じであり、彼らと同様に、河川に生息する甲殻類や表皮の硬い魚類を食べていた証拠となります。
以上の点から、今回のプレシオサウルスは、普段は海で暮らし、気が向いたら河川を訪れるというより、日常的に淡水で狩りや繁殖をし、そこで一生を過ごしていたことが伺えます。
今日でも、海洋のクジラやイルカが、餌を求めて河川に迷い込むことがありますが、そうではなく、カワイルカのように河川に完全適応していたのでしょう。
ロングリッチ氏は「彼らは、首長竜としてはかなりサイズが小さかったので、川でも十分自由に動くことができたはずです」と指摘します。
このたびの新たな知見は、白亜紀におけるモロッコの生物多様性を拡大するものです。
なぜ彼らが淡水に適応したのかはまだわかっていませんが、強敵やライバルの多い海よりは、暮らしやすかったのかもしれません。