紅藻は「小さな友だち」に受粉を助けてもらっていた
受粉とは一般に、雄しべの性細胞である花粉が雌しべに付着することをいい、通常はミツバチやチョウによって媒介されます。
一方で、これと同じことは、海の世界には存在しないと考えられてきました。
しかし、ソルボンヌ大の遺伝学者であるミリアム・ヴァレロ(Myriam Valero)氏は、「グラシラリア・グラシリス(Gracilaria gracilis)」という紅藻の一種を調べていた際に、妙なことに気づきました。
海中からサンプルを採取して水槽に移したあと、藻の中から「イドテア(Idotea)」という小さな甲殻類が数百匹も飛び出してきたのです。
G. グラシリスの受精はこれまで、オス藻の表面に点在する生殖器官から生殖細胞(配偶子)が作られ、それが水流に乗ってメス藻にまで飛散する、と考えられています。
しかし、ヴァレロ氏と研究チームは「水流の他に、イドテアが紅藻の受精を手助けしているのではないか」と予想し、実験を開始しました。
実験では、水の動きがない静かな水槽に、オスとメスのG. グラシリスを15センチほど離して配置。
これと同じ水槽をもう1つ用意し、こちらには体長数センチの「イドテア・バルティカ(Idotea balthica)」を数匹入れました。
もしG. グラシリスが受精に成功すれば、メス藻の表面にシストカープ(cystocarp)と呼ばれる気泡状の構造物ができます。
研究チームは、このシストカープを数えることで、どれだけの精子がメス藻に到達し、受精したかを定量化しました。
その結果、イドテアがいる水槽では、いない水槽に比べて、受精の成功率が約20倍も高いことが判明したのです。
こちらは、イドテアがオス藻からメス藻へと飛び移る様子です。
これと別にチームは、メス藻だけを設置した水槽を用意し、事前にオス藻に触れさせておいたイドテアをその中に放ちました。
するとメス藻は、側にオス藻がいないにもかかわらず、シストカープを作り、受精に成功したのです。
そこで、オス藻に触れさせたイドテアを高倍率の顕微鏡で見てみると、まるで花粉をまぶしたミツバチのように、体中に精子が付着していることがわかりました。
このことから、イドテアが紅藻の受精に明確に寄与していることが証明されています。
では、イドテアは紅藻の受精を無償で手伝っているのでしょうか?