イドテアと紅藻は「ウィンウィンの関係」
ヴァレロ氏は「イドテアもまた、このシステムの中で恩恵を受けている」と指摘します。
ただしそれは、ミツバチが花粉をエサとするように、イドテアが紅藻の生殖細胞を食料にするという形ではありません。
イドテアは、生殖細胞運搬の見返りとして、紅藻から避難場所と、表面に付着したエサ(微生物)へのアクセス権を手にしているのです。
繁茂した紅藻は、イドテアにとってエサも豊富で、住み心地の良い楽園であり、強い潮流から身を守るのにも役立ちます。
また、紅藻の表面には、単細胞藻類の「珪藻(Diatom)」が付着し、汚したり、腐敗させることがあります。
イドテアはこの珪藻を食べながら、紅藻を掃除し、清潔に保つことができます。
つまり、イドテアと紅藻は、やはり昆虫と陸上植物と同じように、互いにWin-Winの関係なのです。
そして今回の発見は、海の藻類が、自らの生殖細胞を拡散するために生物に頼るようになった先駆者である可能性を示唆しています。
これ以前の知見ですと、生物を送粉者とした”受粉”のあり方は、約1億3000万〜4000万年前の陸上植物において誕生したと考えられてきました。
ところが、紅藻は約8億年前に誕生しており、さらに、ごく初期の節足動物は、先カンブリア時代の末期(約5億7000万年前)に出現しています。
媒介者を用いた藻類の”受粉”の始まりは、この頃にまで遡れるかもしれません。
しかし、そのときの媒介者は、まだイドテアではなく、初期の節足動物のグループだったのでしょう。