1人で「疑似的な集合知」を生み出すことで相手の好みに近い回答を作り出せる
研究チームが提案した方法とは、「自分自身の好み」と、自分が想像する「世間一般の好み」を組み合わせて平均化することで、疑似的な集合知を生み出すというもの。
この「世間一般の好み」とは、データを集めたものではなく、当人が勝手に想像しただけのものです。
人は「世間一般の人」を自分とは異なる存在として捉える傾向があるため、「世間一般の好み」を想像すると、それが「別人のような評価」を生み出します。
これにより、自分1人だけで「疑似的な大勢の意見」を生み出すことができ、偏った回答をさけることができる、というのです。
そしてこれによって導き出された答えが、相手の好みに近いものとなるか(有益かどうか)、実験によって確かめました。
実験では、参加者たちに、ある絵画と楽曲に対して、「自分自身の好み」と「世間一般の好み」を回答してもらいました。
次に得られたデータから、意見の「与え手(自分)」と「受け手(相手)」を選出。
与え手の「自分自身の好み」や算出した「疑似的な集合知」が、受け手の好みをどの程度正確に予測できるか調べました。
例えば上の画像にあるように、ある絵画に対して、自分の意見(絵画に対する評価)が「100点中70点」だとします。
相手の好み(絵画に対する評価)が80点であれば、点数が近いので、この意見は有益であり、「正確に相手の好みを予測できていた」と言えます。
逆に受け手の好みが20点であれば、点数が大きく離れているので、この意見は有益ではなかったと言えます。
疑似的な集合知についても、次の画像のように、その有益性が評価されます。
「自分自身の好み」が20点、「世間一般の好み」を80点とした場合、2つを平均化することで50点になり、この意見が「相手の好み」と比較されるのです。
そして実験の結果、「自分自身の好み」や「想像した世間一般の好み」のどちらか一方だけの場合よりも、両者を平均化した「疑似的な集合知」の方が、受け手の好みを正確に予測できると判明。
さらに、①自分自身の好みが平均から離れている場合、②自分と相手の好みが異なっている場合、③対象(絵画や楽曲など)の好き嫌いが判断しやすい場合には、この方法がより効果的だと分かりました。
今回の結果から、自分1人の考えであっても、想像した世間の好みという擬似的な集合知を利用することで、相手の好みに近い回答ができると分かりました。
しかもこの方法は、「好み」などの正解がはっきりしない場合にも役立つのです。
研究チームは、今回の発見がレビューサイトの設計にも応用でき、少数の評価しかない場合でも有益性を高められると考えています。
今回研究者が提案した方法は、相手の好みに近い答えをするおしゃべりが上手な人は、無意識に利用しているのかもしれません。
私たちが、普段ネットでさまざまな評価や感想に目を向けるのも、1つにはこうした自分の中で想像する世間の意見というもののサンプルを回収しているともいえるでしょう。
自分の好きなものを早口で語ってしまい、相手にドンビキされた経験のある人は、今回の方法を試してみるといいかもしれません。