ヒッグス粒子ってなんなの?
ヒッグス粒子は、質量をこの世界に生み出している素粒子です。
ヒッグス粒子は通常見ることもできないかすかな存在ですが、宇宙を海のように満たしています。
そして、空間を満たすヒッグス粒子は、他の物質にまとわりつくような性質があり、これによって物体に質量が生じているというのです。
そのため多くの解説では、この粒子は物質を空間にくっつける「糊のような粒子」だと説明されています。
クォークなどの素粒子はヒッグス粒子と相互作用するため、質量が生まれます。
しかし、光子はヒッグス粒子と相互作用しません。
そのため光子はこの世界に物質として存在しながら、質量を持たないのです。
だから光子はこの世界で最も速い速度で移動します。物理学的に可能な最高速度が光速度である理由もここにあります。
あれ? そうするとアインシュタインが発見した偉大な方程式「E = mc2」が成立しなくなるんじゃない? と疑問を浮かべる人もいるかもしれません。
たしかに質量mがゼロの光子は、この公式に当てはめた場合エネルギーEがゼロになってしまい、結局光子の存在は否定されるように感じます。
しかしこの公式が表しているのは静止質量と静止エネルギーであり、光子はただの一瞬たりとも絶対に止まることなく、どんな状況でも常に光速で動き続けることでこの問題を解決しています。
つまり光子は「質量を持たない」のと引き換えに「絶対に止まることができない」という性質を持つことになったのです。
質量の起源にまで人間の知識が及んだことから、ユーモアのあるノーベル受賞物理学者レオン・レーダーマンは自らの著書の中で、このヒッグス粒子のことを「神の粒子(God particle)」と表現しました。
これは質量(mass)とキリスト教のミサ(mass)が同じ綴りだからというジョークでもあり、また神が神秘のヴェールで隠していた領域についに人間が踏み込んだ記念碑的な発見だからという意味もあったようです。
ただ、神の粒子という言葉はメディアとの相性が良すぎて、世界でセンセーショナルに広まりすぎてしまいました。
そのため米国で素粒子研究を行うフェルミ研究所では、一般公開の際、敬虔なキリスト教徒が神の粒子の説明を求めて見学に訪れるようになり、ビッグバン理論の説明を聞いて気を悪くして帰っていくということが繰り返されたようです。
少し話しが逸れましたが、ヒッグス粒子を単純に説明するならそれは極めて簡単なことで、単に他の物質の動きをひっついて邪魔するというだけです。
これが質量を生み出す原因だとすると、ちょっと気になる問題が出てきます。
それは質量を生むヒッグス粒子は重力の問題とは関係がないのか? ということです。
多くの人は「質量が大きい=重力に強く引っ張られる性質」と理解していると思います。しかしヒッグス粒子の動きを邪魔するという性質は、この理解ではうまく飲み込めません。
こういう疑問が浮かんでしまう原因は、「質量」と「重さ」という概念を同一視してしまっている人が多いためでしょう。
そのため、質量を生む素粒子って重力子じゃないの? と思ってしまう人もいるかもしれません。
この問題を理解するためには、まず「質量」と「重さ」が異なる性質であることを理解する必要があります。