人工衛星を乗っ取るのは簡単?
コーシャ氏によると、Anik F1Rを含むほとんどの人工衛星には「技術的な制約がない」といいます。
十分な強さの信号を送信できさえすれば、人工衛星はそれを受信して増幅し、地上に送り返してくれます。
言い換えるなら、運用中の人工衛星は”音声を拾うマイク”のようなもので、一番大きな声を出した者が選ばれ、その音声が増幅されるのです。
ところが通常は、大手の放送局の信号を超えられないので、一般人が人工衛星をジャックすることは極めて難しくなっています。
しかし、前例がないわけではありません。
たとえば、2009年に、アメリカ海軍の人工衛星をハイジャックした要件で、39人がブラジル連邦警察に逮捕されています。
このとき、ブラジルのハッカー集団は、高性能アンテナと自作の機材を使って、アメリカ海軍の衛星を個人用のCB(市民)ラジオに変えたといいます。
テロリストが、Anik F1Rのような放送衛星をジャックした場合、自国や敵国にプロパガンダ映像を流すことができるでしょう。
また、個人のハッカーだけでなく、各国が互いの人工衛星を乗っ取る危険性も考えられます。
さらに、放送衛星ならまだしも、軍事衛星が乗っ取られた場合、ミサイル防衛システムを機能不全に陥らせたり、戦場での通信を妨害することも可能です。
特に、役目を終えた人工衛星が墓場軌道に移動している最中は、通信経路が空いているためハッカーの狙い目となります。
コーシャ氏は、今回の実演を通して、人工衛星のセキュリティの脆弱性に警鐘を鳴らしました。