エイリアン金魚はお腹の中から飛び出す「歯舌」をもっていた
カタツムリ、イカ、タコなどの軟体動物の多くは、口の中に「歯舌(しぜつ)」と呼ばれる舌のように伸びる器官をもっています。
歯舌の表面にはヤスリ状の「細かいギザギザ」があり、これはヒトの「歯」に該当する器官なのだとか。
軟体動物たちは、この歯舌を使って食物を削り取りながら食べるのです。
そしてモリス氏らの新しい研究では、石炭紀(3億5920万年前から2億9900万年前)に存在したとされる動物「ティフロエスス」が、歯舌のような器官をもっていたと判明しました。
ティフロエススが最初に発見されたのは1973年です。
ティフロエススは魚のような形をしていましたが、他の石炭紀の動物とはあまりにも異なっているので、科学者たちは長年不思議に思っていました。
そして2005年、モリス氏は当時発表した論文で、ティフロエススを「エイリアン金魚」と呼ぶことにしました。
ティフロエススが、「石炭紀に地球を訪れたエイリアンが置いて帰ったペット」と表現したくなるくらい、極めて奇妙で特異な存在だったからです。
もちろんモリス氏の冗談を本気で信じる人はいませんが、ティフロエススを知れば知るほど、その呼び名に納得できるでしょう。
そして今回モリス氏は、アメリカ・モンタナ州で発見された極めて保存状態の良いティフロエススの化石から、体内の構造をより詳しく解明できました。
ティフロエススは、最大9cmの魚のような柔らかい体をもっており、後部には推進するためのヒレがありました。
また軟体動物の特徴である「歯舌」が体内の奥深くにあり、歯も「逆向き」でした。
つまり、普段は歯の付いた管が裏返った状態で体内に収まっており、獲物を捕まえるときは、一気に元に戻りながら口から射出される、というのです。
モリス氏は、この構造を「指の部分が裏返ったゴム手袋」に例えています。
手にはめたゴム手袋を外すと、指の部分だけが裏返った状態になるものです。
これを元に戻すとき、私たちは手袋に息を吹きかけたり、水を流し込んだりしますね。
同じように、ティフロエススの歯は裏返った状態から、勢いよく元に戻って口から発射されていたのです。
実際、化石のティフロエスス内部には捕食されたワームの残骸が残っていました。
この構造を知ると、「エイリアン金魚」というあだ名がいっそう適切なものに思えますね。
モリス氏ら研究チームは、ティフロエススが「軟体動物に近い存在」だと指摘していますが、「分類学上の位置づけは、まだ議論の余地がある」とも述べており、今後の調査と発見に期待をかけています。