マグロたちは「規則正しく順番を守って」サメに体を擦りつける
研究チームがすべての動画を分析した結果、マグロなどの大きな魚は小さい魚に比べて、体をサメに擦りつけることが多いと判明しました。
公開された映像では、巨大なマグロがサメの後ろから近づき、体を擦りつけてから去っていく様子が確認できます。
「マグロがサメに近づいて食べられないの?」と疑問に思った人もいるでしょうが、調査ではむしろマグロのような大きな魚の方がサメを積極的に利用していたようです。

その理由について研究者たちは、サメの捕食対象となる魚のサイズが自身の体長の36%以下であることがほとんどである点を指摘しています。
つまりマグロはサメにとって大きすぎる獲物なのです。
その証拠にカツオなどサメの体長の22%程度のサイズしかない魚は、サメへの擦りつけ行動があまり見られなかったといいます。
また「擦りつけ行動」は9割成功するものの、残りの1割程度は失敗に終わることも分かりました。
泳いでいるサメに体を擦りつける以上、タイミングがずれる場合もあるのでしょう。

その他に魚たちが、自分の体のどの部位をサメに擦りつけるか、という点にも特徴がありました。
すべての魚類で成功した93回の擦りつけのうち、魚たちは頭部や胸ビレを擦りつける割合が大きく、背ビレや尾ビレを擦りつける割合は小さかったのです。
この擦りつけの割合が大きい部位は、目や鼻孔、エラ、側線(魚が水圧や水流の変化を感じるための器官)など、寄生虫による影響が大きい場所でもあります。
このことは、擦りつけ行動が「寄生虫を除去するためである」という科学者たちの推測を支持するものとなりました。

さらに魚類によってサメの扱い方にも違いがあると分かりました。
マグロは整然とサメの後ろに並び、順番を守って、1匹ずつ丁寧に自分の体をサメの尾ビレに擦りつける傾向がありました。
一方、ブリに似た大型魚「ツムブリ(学名:Elagatis bipinnulata)」は、サメの後ろで群れをつくり、どんどん飛び出してはさまざまな角度からサメにぶつかっていく、というかなり乱暴な手法をとっていたのです。

どちらもサメを道具のように扱っていることには変わりないですが、マグロたちにはいくらか紳士的な姿勢が見られるようです。
また、この調査ではサメが他の魚に身体をぶつけられても全く無反応であることもはっきり示されました。
このサメの無関心ぶりも、サメがブラシ扱いされる原因になっているようだと研究者は報告しています。
研究チームは、これらの発見からサメの存在が魚たちの健康状態を高めているという考えに対する確信を強めました。
それゆえ、昨今特定の水域で問題となっている「サメの個体数の減少」が、魚たちにどのような影響を与えるのか知りたいと考えており、現在も調査を進めている最中です。
※この記事は2022年10月に掲載したものを再編集してお送りしています。
擦り付けられて嫌がらないということは、寄生虫はサメには移らないんでしょうね。鮫肌のそのバリア能力も見事です。