魚たちにとってサメは「体を綺麗にする道具」だった!?
魚たちの「サメに体を擦りつける行動」は、以前からよく観察されていました。
小さな魚から大きな魚まで、時にはサメの捕食対象となる魚でさえ、体を擦りつけているのです。
その理由は、サメのヤスリのような肌にあると考えられています。
サメの皮膚は、「皮歯」と呼ばれる小さな歯のような鱗で覆われており、手をもたない魚たちが自分の体を「掻いて」寄生虫などを除去するのに役立つというのです。
寄生虫の存在は、自然界の動物たちにとって大きな生存リスクとなっています。
哺乳類の多くが毛づくろいという行動を取るのも、この寄生虫リスクを除去するために必要な行動です。
クマのような単独行動する動物では、木に身体を擦り付ける行動もよく見られます。
しかし、遠洋にいる魚たちは、毛づくろいする手足もなく、身体を擦り付けるような砂地や岩も周囲にありません。
そこで海の捕食者であるサメを、まるで「垢すりに使う軽石」や「掃除道具のタワシ」のように利用しているのです。
仲間同士で擦り合えば良いようにも感じますが、同種で身体を擦り合うと、寄生虫を除去するよりも相手に移したり移されたりするリスクが高くなります。
また、通常魚の表面はツルツルしているため、鮫肌ほど異物除去に最適ではなく、サイズもサメの表面はちょうどいいという理由があるようです。
そのため、サメによる捕食リスクと寄生虫リスクを比較した場合、サメを利用して寄生虫を取り除くメリットの方が勝ることになるのでしょう。
とはいえサメが危険な捕食者であることに違いはなく、また遠洋の出来事であるため、これらの行動はあまり詳しく検証できていません。
そこでトンプソン氏ら研究チームは、「擦りつけ行動」に対する理解を深めるため、2012~2019年の間に世界中の36カ所で取得された数千時間にも及ぶ海中カメラの動画を分析することにしました。
その結果、魚の種類によって「サメの扱い方」にいくらか違いがあることを発見しました。