周囲の「信頼できる大人」一人一人が若者の自死を防ぐかも
若者が「死にたい」と感じた時の相談相手は、親や祖父母が多いとされています。
実際、親の助けや慰めを得て、憂鬱な気持ちや原因を取り払うことができた若者も多いはずです。
しかし同時に、若者が深刻な状態に追い込まれるほど、「迷惑をかけたくない」という気持ちから親や友人には相談しにくくなる傾向も観察されてきました。
つまり、親への相談のハードルが低くなればなるほど、若者たちの自死を防げると考えられます。
またそうした深刻な状況には、本人の自己肯定感(自分のことを好きかどうか)も大きく関係するでしょう。
そこで立瀬氏ら研究チームは、親への相談を促したり自己肯定感を高めたりする要素を明らかにするため、1つのデータ分析を実施しました。
今回の研究では、富山県2005年生まれの高校1年生(15~16歳)5874名(男性2846名、女性3028名)を対象にしています。
そして参加者たちに、「得意なことがある」「楽しいことがある」「認めてくれる人がいる」などの自己肯定感に関連する質問を行い、「親への相談」「自己肯定感」にどのように影響しているか調査しました。
その結果、親に何も相談しない生徒は、男性で22.4%、女性で13.6%でした。
また自分のことが嫌いだと回答した生徒は、男性で33.9%、女性で45.6%だったようです。
このことは、サポートを必要している若者が多いことを示しています。
さらに、「認めてくれる人が多い」「自己肯定感が高い」ことは、どちらも親への相談を促すと判明しました。
ちなみに「イライラが少ない」ことや「かんしゃく持ちでない」ことも親へ相談しやすいという結果と関連していましたが、これらは本人の気質的な問題であり、周囲でサポートできることではありません。
そのため「大人が行えるサポート」という観点で考えると、特に「認めてくれる人が多い」という要素が注目に値します。
興味深いことに今回の分析では、「友達の多さ」や「助けてもらった経験」は、「親への相談」「自己肯定感」との関連が見られませんでした。
つまり、どんなに友達が多いとしても、そのことが「自死に追い込むような深刻な状況」を遠ざけるとは限らないのです。
対照的に、「自分を認めてくれる他者の存在」は、高校生の自己肯定感を高めるだけでなく、親への相談を促し、自死を回避するのに役立つ可能性が示されました。
周囲の大人たちは、たとえ自分が相談を受けるわけではないとしても、若者の気持ちを理解しようと努めることで、彼らの未来を守れるのです。
「自分たちが若いころはもっと……」「最近の若者は何を考えているか分からない」という考えをもつのではなく、「確かにそうだよね」「自分も同じ気持ちだった」と理解を示してあげることが大切でしょう。