維管束システムを進化させざるを得なかった理由とは?
地球上で最初の陸上植物は、およそ4億5000万〜5億年前に誕生したことが分かっています。
当初はサイズも小さくて、構造も簡単なコケのような形態をしていました。当然ながら、維管束のような内部ネットワークもありません。
というのも、これらの植物の分布は水辺に限定されていたので、維管束が必要なかったのです。
ところが、植物が内陸の乾燥地帯に進出し始めると、水や日光、栄養分を取り込みつつ、蒸発や脱水から身を守るための新たなシステムが必要になりました。
こうして誕生したのが、根や茎、枝とその内部に走る維管束だったのです。
ただし、このときに獲得された維管束は、ストローを束ねたような円筒形のシンプルな造りでした。
そして、ここでも植物は新たな難題に直面します。
水不足や干ばつで植物が乾燥すると、内部で「水蒸気の泡」が発生し、それが維管束の中で根詰まりを起こして、水分や養分を吸い上げられなくなったのです。
特に、当時の原始的な維管束では、造りがシンプルなせいで気泡が容易に拡散してしまい、水や養分の供給を遮断したと考えられます。
こうなると、植物は枯れて死んでしまうしかありません。
しかし、またもや植物は自らの内部構造に革命を起こしました。
化石記録によると、約4億2000万年前から維管束ネットワークが徐々に分割され、サイズや構造もより複雑なものに進化したのです。
とすれば、この進化は「気泡の根詰まり」を解決するための動きと考えるのが自然でしょう。
そこで研究チームは、化石記録として保存されている現生および絶滅した植物のさまざまな維管束システムをコンピュータ上でモデル化し、気泡の拡散をシミュレーションしました。
その結果、原始的な維管束は、円筒形のシンプルな造りのために気泡が拡散しやすく、根詰まりが起きやすいことが判明。
対照的に、今日的な維管束では、内部ストローが分岐していたり、離れたりする複雑な造りのために、気泡の拡散が一部分に限定され、被害を最小化できることが分かったのです。
こちらは、気泡の拡散(赤色)を示したシミュレーション映像で、左が原始的な維管束、右が今日的な維管束を表しています。
この結果から研究チームは「植物が複雑な維管束システムを進化させた理由は、水不足や干ばつ時に発生する気泡に対処するためである」と結論しました。
しかも化石記録によると、この進化は2000万〜4000万年という比較的短いスパンで起こっていたようです。
今回の成果について、研究主任の一人であるクレイグ・ブローダーセン(Craig Brodersen)氏は次のように述べています。
「シミュレーションでは、植物が円筒形の単純なシステムを少し複雑化するごとに、干ばつに耐える能力が高まっていました。
植物は、こうした小さいながらも重要な変化を起こすことで、誕生のごく初期に直面した大きな問題を解決できたのです。
そうでなければ、今日のような森林は存在しなかったでしょう」
今日の清浄な空気があるのは、植物の忍耐強い進化のおかげかもしれません。