20種類全ての型のmRNAをワクチンに詰め込む
開発にあたって基礎となったのは、新型コロナウイルスのワクチン開発で脚光を浴びたmRNA技術でした。
研究者たちは新型コロナウイルスワクチンの製造過程と同じく、インフルエンザウイルスの遺伝子をワクチンの主成分であるmRNAに組み込み、マウスの細胞内でウイルスの体の一部を作るように仕向けました。
ただ新型コロナウイルスワクチンが特定の型に対応した遺伝情報が組み込まれた一方で、新たに開発された万能インフルエンザワクチンは20種類の型の遺伝情報が全て組み込まれていました。
そのため万能ワクチンの接種が行われたマウスの細胞内部では、20種類のウイルス断片が生産され、免疫システムの教科書にされます。
勉強にたとえるなら、新型コロナウイルスのワクチンが1種類の教科書で免疫を訓練している一方で、万能インフルエンザワクチンは20種類の教科書で免疫を訓練していると言えるでしょう。
万能ワクチンのプロトタイプが完成すると、研究者たちは早速マウスに注射し、その後に変異が少ない季節性を模した型と、変異が大きいイレギュラー型の2種類のインフルエンザウイルスを感染させてみました。
結果、万能ワクチンを注射されたマウスはどちらに感染した場合でも生き残ることができた一方で、比較のため偽ワクチンを注射されたマウスはどの型に感染しても1週間後には全て死亡しました。
この結果は、万能ワクチンは通常のインフルエンザ型だけでなくイレギュラーな変異を起こした新型に対してもマウスの命を守る保護効果を与えたことを示します。
研究者たちが万能ワクチンの効果期間を検証したところ、4カ月後にも抗体が存在していることが示されました。
また追加の実験で同様の操作をフェレットで行った場合にも、マウスと同じような結果になりました。
この結果は、万能ワクチンはあらゆるインフルエンザの型に対して万能であるだけでなく、異なる種に対しても効果を発揮する万能さも持ち合わせている可能性を示します。
研究者たちは今後、万能ワクチンが人間にも効果を発揮するかを調べていくとのこと。
あらゆるタイプのインフルエンザウイルスに対応した万能ワクチンを人々が定期的に接種すれば、イレギュラー型が起こすパンデミックを事前に予防できるようになるでしょう。
しかし人間の感染防護力の増加は、必ずウイルス側の進化によって対抗されていしまいます。
そのため万能ウイルスの効果を維持し続けるには、常に新しい万能ウイルスを開発し続ける必要が出てくるでしょう。