農業する魚「ルリホシスズメダイ」
本研究はインド洋の離島群にて、外来種の「クマネズミ(black rat)」が生息する5つの島と生息していない5つの島を比較したものです。
クマネズミは歴史的に、商業船に乗り込んでいた個体が1700年代にインド洋の島々に侵入・定着したことが分かっています。
彼らが陸地の生態系をかき乱していることは以前から知られていましたが、今回新たに判明したのは、島周辺のサンゴ礁に生息する「ルリホシスズメダイ(jewel damselfish)」の行動まで変えていたことです。
ルリホシスズメダイ(以下スズメダイ)は、その名の通り、瑠璃色の星のような模様が点々と散りばめられた小型魚で、東インド洋や西太平洋、沖縄周辺の熱帯域に分布します。
単独で生活する藻食性で、サンゴ礁に50平方センチメートル程の縄張りをはり、その中で海藻を育てて食べることで有名です。
たとえば、自分の食べない海藻を見つけると、それを口に咥えて縄張りの外に運び出して捨てます。
そうすることで、食用として育てている海藻に日光や栄養分を十分に与えることができるのです。
また、育てた海藻を仲間におすそ分けする気は皆無で、縄張りに侵入してきた魚は積極的に撃退します。
つまり、スズメダイは「縄張り意識」と「攻撃性」の強い魚なのです。
ところが研究チームの調査により、クマネズミが繁栄している島の周辺に住むスズメダイは、縄張り意識と攻撃性が大きく低下していることが発覚しました。
その主原因として関わっていたのは「海鳥のフン」です。
同地の海鳥は外洋に出てエサを採取し、島に帰ってきて巣を作ります。
そのサイクルの中で海鳥たちはフンを大量に海へ落とすのですが、実はフンには窒素などの栄養分が豊富に含まれており、これが海に流れ込むことで、サンゴ礁や海藻が栄養価も高く、豊かに育つのです。
しかしクマネズミの侵入した島では、彼らがヒナや卵をバクバク食べてしまうため、海鳥の個体数が大幅に減っています。
調査によると、クマネズミの繁栄する島ではそれがいない島に比べて、海鳥の個体数が最大720倍も少なくなっているのです。
その結果、島周辺のサンゴ礁に流れ込むフン由来の窒素量は251分の1にまで激減していることが分かりました。
栄養分が減ることで、当然ながら、サンゴ礁で育つ海藻の栄養価が激減し、一区画あたりに育つ密度も減ってしまいます。
では、それによりスズメダイの行動は具体的にどう変わってしまったでしょうか?