栄養価の落ちた海藻は「守る気」がなくなる?
最初に述べたように本研究では、クマネズミの生息する島5つと生息しない島5つの周辺海域を比較調査。
その結果、ネズミのいない島周辺のスズメダイが平均48平方センチメートルの縄張りを持っていたのに対し、ネズミのいる島周辺のスズメダイでは平均62平方センチメートルにまで拡大していることが分かりました。
加えて、後者のスズメダイは攻撃的な行動が5倍も少なくなっていたのです。
これについて、研究主任のレイチェル・ガン(Rachel Gunn)氏は「ネズミのいる島周辺では海藻が十分に育たず、栄養価も落ちていることが原因でしょう」と指摘します。
具体的には、食用として適当な栄養価の高い海藻がまばらにしか育たないため、縄張りを普通より広げる必要があります。
さらに、海藻一つ一つの質も落ちているため、身を挺してまで守る気がなくなったのでしょう。
確かに、自分の家の畑で立派な野菜がぎっちり育てば、是が非でも守りたくなりますが、小さな野菜がまばらにしか育っていない畑は、エネルギーコスト的にも必死に守って得なことはほぼありません。
それゆえ、スズメダイの攻撃性も自然に薄れていったと考えられます。
スズメダイの変化でどんなデメリットがある?
縄張りが少し広がって攻撃性が薄れたぐらいなら、あまりデメリットもなさそうですが、やはり生態系を総合的に考えると良いことではありません。
たとえば、スズメダイが栄養価の落ちた海藻の「育成」に熱心でなくなると、海藻の密度はどんどん落ちていき、スズメダイの個体数が減るだけでなく、海藻を利用する他の水生生物にも悪影響が出ます。
また、水中の栄養分の減少はサンゴ礁を弱らせ、種の多様性を減らす可能性もあるでしょう。
ご存じのように、サンゴ礁は海の生態系において欠かせない存在であり、熱帯魚のすみかや産卵場所、陸地を囲んで波を防ぐ堤防の働き、二酸化炭素を吸収して酸素を提供する温暖化の防止など、あらゆる方面で多様な役割を担っています。
今回は外来ネズミとスズメダイの関連性が判明したばかりで、より広範な海洋生態系に生じる悪影響は確認できていません。
しかしガン氏は「生態系は長いスパンで繊細なバランスを進化させているので、何らかの混乱があれば、広い範囲に多大な影響が出るかもしれない」と懸念しています。
本研究の成果は、インド洋の離島のクマネズミを駆除するメリットをこれまで以上に強調するものです。
外来ネズミの駆除は陸地だけでなく、海洋にも良い影響を与えるかもしれません。