古代の人類も「動作の表現」を追及していた
イラン南東部の遺跡「シャフレ・ソフテ(“焼けた都市”の意味)」で、1つのゴブレットが発見されました。
これは約5200年前のものだと考えられており、側面には飛び跳ねるヤギと植物の絵が5パターン描かれています。
そして考古学者たちは、これらを「連続した一連の絵」だと認識しました。
並べられた絵によって、ヤギが飛び跳ねながら植物の葉を食べる様子が再現されているのです。
つまり5200年前のクリエイターも、1枚の平面でなんとか動きを表現しようと工夫していたのです。
ゴブレットを回転させるとパラパラ漫画のような効果も生まれるため、アニメーションのルーツとも言えるでしょう。
動きを表現した古代の例は、ほかにもあります。
フランス南部のショーヴェ洞窟には、最古級の洞窟壁画があります。
この壁画の年代については、約3万2000年前のものと主張する考古学者もいます。
そして10mを超える壁画には、馬やバイソン、ライオンが含まれた狩猟シーンが描かれています。
この壁画では人類最古とも呼べる、漫画的表現が動物たちの動きに対して用いられているといいます。
あるバイソンには8本の足が描かれていますが、これを分割して見ると、バイソンの走り方を表現したものだと分かります。
これら過去の事例について、オーストラリア・グリフィス大学(Griffith University)の芸術学者レイラ・ホナリ氏は、2018年の論文で次のように述べました。
「これは、人類が数千年前から動物の動きに魅了され、一連の連続イメージを捉えるためにエネルギーを注いできたことを示唆しています」
人類は少なくとも動画が存在する数千年以上も前から、「動き」を意識してなんとかそれを絵で表現しようと試行錯誤を重ねてきたのでしょう。
その積み重ねが「現在の漫画の表現」にも繋がっていると言えるでしょう。
今や動画は本よりも手軽にスマホで楽しめるコンテンツです。それでも漫画は廃れることなく確固たる地位を獲得しています。
確かに、動きが重要なスポーツやアクションのジャンルでも、漫画が動画に取って代わることはありませんね。
これは遠い過去から現在に至るまでの「動きを追求した」クリエイターたちの情熱の成果だからなのかもしれません。