刺胞生物の触手と足盤(イメージ)
刺胞生物の触手と足盤(イメージ) / credit:Pixabay
biology

「足がなくなったら触手が足に」細胞が役割を変えるヒドラの不思議!

2023.02.25 Saturday

生物の中には体の一部を欠損しても再生できるものがいます。

トカゲのしっぽなどが有名な例でしょう。

こういった生き物の中には「まだ役割を持たない細胞」である「幹細胞」が多くあり、体が欠損するとその部位にあった細胞へと変化することで再生していきます。

しかし、中には幹細胞ではない「すでに役割を持った細胞」を「欠損した部位の役割を持った細胞」に変化させる生物もいるのです。

このメカニズムは謎が多く「細胞がどのように役割を手放し、新たな役割を持つように変わるのか」明らかになっていません。

今回紹介する研究では単純な体の構造を持つ刺胞生物ヒドラを用いて、これまで謎に包まれていた「細胞の役割を変化させる要因」を明らかにしています。

How to turn a tentacle into a foot https://phys.org/news/2023-01-tentacle-foot.html
The transcription factor Zic4 promotes tentacle formation and prevents epithelial transdifferentiation in Hydra https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abo0694 脊髄動物Zicファミリーの形態形成における役割 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12026242/ Hybrid Cellular Metabolism Coordinated by Zic3 and Esrrb Synergistically Enhances Induction of Naive Pluripotency https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28467928/

細胞はすべて同じじゃない!

無数にある細胞
無数にある細胞 / credit:フォトAC

人間や動物、植物などすべての多細胞生物は、様々な役割を持った細胞によって構成されています。

もともとは1つだった生物たちの細胞は、分裂して数が増えるとそれぞれ役割を持った細胞に変化します。

この細胞の変化を「分化」と言い、分化した細胞たちはそれぞれの役割に合わせた機能を持っています。

細胞分化の研究に使われるヒドラ

足盤で水草にくっついているヒドラ
足盤で水草にくっついているヒドラ / credit:フォトAC

淡水産の刺胞生物であるヒドラは体の構造が単純であり、飼育も容易である上、その再生力の強さから細胞分化のモデル生物としてよく用いられています。

ヒドラには岩などに体を固定するための足盤とエサをとらえるための触手があり、足盤と触手では同じ表皮細胞であっても全く機能が異なります。

ヒドラの構造
ヒドラの構造 / Credit:慶應義塾大学 日吉キャン発,ヒドラの摂餌行動とその認識

例えば、周囲の環境に付着できるようにする粘液を分泌するという機能は足盤の表皮細胞にしかありません。

再生力の強いヒドラは足盤が欠損しても新たな足が形成され、再生します。

その際、触手の表皮細胞が役割を替えて、足盤の表皮細胞へと変化するのです。

ジュネーブ大学とフリードリッヒ・ミーシャー生物医学研究所の共同研究チームは、このヒドラの表皮細胞の役割の変化がどのように起こっているのか調査しました。

次ページ触手の細胞が足の細胞に変わる「分化転換」の鍵

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