触手の細胞が足の細胞に変わる「分化転換」の鍵
ヒドラの触手の表皮細胞が本来の触手としての役割を手放して足盤の表皮細胞へと変化するように、すでに役割を持った細胞がその役割から別の役割に変化することを細胞の「分化転換」と言います。
ジュネーブ大学とフリードリッヒ・ミーシャー生物医学研究所の共同研究チームはヒドラの触手の表皮細胞が分化転換する際に影響を及ぼす転写因子を特定しました。
細胞の役割を決める転写因子
細胞の中にはその細胞の設計図であるゲノムDNAがあり、ゲノムDNAの一部がRNAとして転写されます。
そのRNAをもとにタンパク質が作られて、新たな細胞が生まれるのです。
転写因子とは、ゲノムDNAのどの部分を転写するか決めるもので、細胞の役割の維持や分化転換に大きく関わっています。
同研究チームは、転写因子Zic4の発現を減少させると触手の表皮細胞が足盤の表皮細胞に変化していくことを発見しました。
つまり、転写因子Zic4が触手の表皮細胞の役割を維持するものだとわかったのです。
転写因子Zic4の影響で足盤から触手に
同研究論文では、ヒドラの表皮細胞において、足盤のものが「デフォルト」であり、それが転写因子によって分化していった可能性があるとされています。
触手の表皮細胞も元は足盤のものと同じ役割を持った細胞で、Zic4の発現により触手の役割を持つように分化したということです。
Zic4が属するZicファミリーと呼ばれる一群の中には、神経系細胞への分化を促進するものや筋肉や骨格形成に影響を及ぼすものなど細胞の分化に関わるものが多くあります。
なお、Zic4を含むZic1~5は哺乳類の中にもあるものです。
それでは、ヒトを含む哺乳類においても欠損した部分が細胞の分化転換によって蘇る可能性があるのでしょうか?